
[掲載]2009年11月14日朝刊be
■「忘れられない題名」の意味
09年は創元推理文庫の創刊50周年。過去の絶版作品から復刊の希望を読者につのったところ、本格ミステリーの本書が1位に選ばれた。初文庫化は62年で、今年8月末に新訳で復刊された。熱いリクエストの理由を、東京創元社は「一度聞いたら忘れられない題名にある」とみる。
舞台は50年代の米国。ニューヨーク近郊に住む出版社社長宅で開かれたパーティーには、作家、著作権エージェント、書評家など出版業界関係者が一堂に会していた。主賓の人気作家が、余興のゲーム「幽霊の2/3」の最中に、毒を飲まされて絶命したところから事件が始まる。
だが、この殺人事件の直後に、「誰がどうやって殺したか」という本格ミステリー定番の謎解き以上の「本当の謎」の存在が明かされる。
その謎が提示された第7章の終わりからページを繰る手は止まらなくなる。大団円を迎えたとき、「忘れられない題名」の本当の意味を知り、思わず「うまい!」とひざをたたいてしまうのだ。
半世紀前の作品だが、出版業界をめぐる内輪話や書評家同士の間抜けなやりとりなど、今でもありそうな描写が笑いを誘う。(石塚知子)
■もっとはまりたい人へ 書店員のおすすめ
有隣堂たまプラーザテラス店(フロアマネージャー) 高樋純子さん
〈1〉ジャンピング・ジェニイ [著]A・バークリー
〈2〉スリーピング・マーダー [著]アガサ・クリスティー
紀伊国屋書店新宿本店(雑誌担当) 榎本周平さん
〈3〉火刑法廷 [著]ジョン・ディクスン・カー
〈4〉せどり男爵数奇譚(たん) [著]梶山季之
〈5〉殉教 [著]三島由紀夫
『幽霊の〜』をきっかけに、マクロイの再評価が進みそうだ。『殺す者と殺される者』の新訳復刊も予定されている。
再評価といえば、ミステリー界に数年前、古典復刊ブームが起きたのは、アントニイ・バークリーの再評価がきっかけだった。『第二の銃声』のヒットを皮切りに、書棚に並べるとかっこよさそうなバークリーの単行本が次々発売された。〈1〉は01年発売の豪華単行本もあるが、この10月に初文庫化され入手しやすくなった。小説家主催のパーティーで殺人事件が起きる設定も『幽霊の〜』を連想させる。
早川書房は03年から、ミステリーの女王アガサ・クリスティーの新訳を手がけ、現在100点が刊行済み。「名探偵ポアロよりも、端正な印象のミス・マープルのシリーズが好き」という高樋さんは〈2〉をすすめる。題名通り「眠れる=回想の中」の殺人を扱った本書は「人間の深層心理の不思議さと意外な犯人が明らかになるまでのゾクゾクする過程がたまらない」。
〈3〉にも出版業界人が登場する。17世紀に実際に起こった連続毒殺事件が、小説の現在に絶妙にリンクする。「怪奇小説としても読め、最後の最後、もう終わりかと思ったら大やけどします」と榎本さん。
〈4〉は本を収集せずにはいられない人たちが徐々に罪を犯すようになるまでの恐ろしくもこっけいな妄執を描く。「共感するところがあり、そんな自分に恐怖を覚えた」とは、本好きな書店員らしい榎本さんの感想だ。
〈5〉は三島の自決直前に編まれた自選短編集。少年期特有の残酷さを描き、自伝的色彩を帯びた表題作(初出48年)にも、本は小道具として登場する。
著者:ヘレン・マクロイ
出版社:東京創元社 価格:¥ 903
著者:アントニイ・バークリー
出版社:東京創元社 価格:¥ 966
著者:アガサ・クリスティー
出版社:早川書房 価格:¥ 777
著者:ジョン・ディクスン・カー
出版社:早川書房 価格:¥ 672
著者:梶山 季之
出版社:筑摩書房 価格:¥ 819
著者:三島 由紀夫
出版社:新潮社 価格:¥ 620
著者:アントニイ バークリー
出版社:国書刊行会 価格:¥ 2,447