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新書の穴

ル・コルビュジエを見る [著]越後島研一

[掲載]週刊朝日2007年10月05日号
[評者]海野弘

■曲線と直線が描く20世紀

 ル・コルビュジエという発音しにくい名の建築家は、今や現代建築の象徴、いわば建築界のアインシュタインのような存在になった。最近も、森美術館で大きな展覧会があった。これだけくりかえし展覧会が開かれ、おびただしい本が書かれる建築家はいない。

 しかしその割に、一般的には知られていないのではないだろうか。建築の世界では偶像化されているが、その仕事の領域があまりに広く、多様なので、とらえにくいのである。

 この本は、ル・コルビュジエの厖大な仕事をすっきりとコンパクトにまとめて説明してくれる。サヴォワ邸(1931)とロンシャン教会堂(1955)を二つの頂点として、現代建築史の中に位置づけ、ル・コルビュジエの建築の特徴を明らかにしていく。その明快さが気持ちよい。

 サヴォワ邸は、過去の建築から装飾やうるさい色彩を削ぎ落とし、シンプルで白い空間を完成する。古い時代との訣別である。しかしロンシャン教会堂では、生成する、有機的な曲線がもどってくる。無機的な直線と有機的な曲線という両極を揺れ動くル・コルビュジエの軌跡が20世紀を描いてきた。

 彼は19世紀末から脱して、装飾を排除した現代に出た。私は実は、逆に、19世紀末のアール・ヌーヴォーにもどった。しかし彼は一旦別れた生命的な曲線に、ロンシャン教会堂で回帰したかに見え、私はまたル・コルビュジエに出会ったのである。

 坂倉準三、前川國男、吉阪隆正、丹下健三といった日本の建築家はル・コルビュジエの大きな影響を受けた。この本のル・コルビュジエの影響を通して日本の近代建築史を語る章がとても面白い。

 1つだけ不満なのは、ル・コルビュジエの建築についてのみ語って、彼の生涯、人間的部分について触れられていないことだ。彼がどのように生き、どのように時代を見ていたのか、について知りたい。そうすれば、彼の建築はもっと人間的に感じられるだろうから。建築もまた生きているのだ。

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