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ゲルニカ―ピカソが描いた不安と予感 [著]宮下誠

[掲載]週刊朝日2008年3月7日増大号

  • [評者]海野弘

■あの「ゲルニカ」ともう一度向き合わせてくれる

 深夜テレビで『トプカピ』という映画をやっていた。ジュールス・ダッシン監督、メリナ・メルクーリ主演で、なつかしいので、つい見てしまった。トプカピ宮殿のエメラルドを盗み出す話であるが、その方法が「芸術的だ」というのに対して、メルクーリが「ピカソね」というシーンがある。ちょうどこの本を読みつつあったので、思わずにやりとさせられた。

 「たけしの誰でもピカソ」などというテレビ番組があるように、ピカソは芸術家の代名詞のように思われている。そしてピカソというと「ゲルニカ」が一番よく知られている。

 本書は「ゲルニカ」という一枚の絵を通して、絵画とはなにか、芸術とはなにかを語ろうとする壮大な試みといっていいかもしれない。

 「ゲルニカ」は、1937年4月26日、スペイン市民戦争の中で、バスク地方の都市ゲルニカがドイツ軍の空爆を受け、その惨劇を聞いたピカソが、共和国政府に依頼されていたパリ万博スペイン館の壁画のテーマをこの事件に変更し、一気に描き上げた作品である。それだけに、「ゲルニカ」が傑作かどうかは、意見が分かれる。

 このゲルニカ事件の真相はまだはっきりしていない。南京事件に似たような論争がつづいている。ともかく、政治と芸術をめぐる葛藤が、ピカソの「ゲルニカ」に持ち込まれざるを得ないのだ。

 そのような政治性が「ゲルニカ」を見る私たちを不安にする。芸術以外の評価を排除すべきだ、という考えもある。

 この本の著者は、「ゲルニカ」をめぐるさまざまな評価をともかく広く受け入れ、論点を整理してくれる。その開かれた姿勢に好感が持てる。そして、「ゲルニカ」のさまざまな見方、読み方をまとめ、著者としてのパースペクティヴを示してくれるが、それもまた相対的なものであり、絵を見るとは、私たちひとりひとりの問題である、という結論に達し、あらためて、私たちを「ゲルニカ」に向き合わせてくれる。

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