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新書の穴

視点をずらす思考術 [著]森達也

[掲載]週刊朝日2008年04月18日号
[評者]青木るえか

■肩身の狭い思いは正しいこともあるのだ

 このタイトルの「思考術」という言葉から、最近の新書にありがちな「ちょっと視点を変えてみるとよりトクしまっせ〜」というようなものを感じる人もいるかもしれない。まあ、著者がオウムのドキュメンタリー映画を撮ったあの森達也なので「そういうものじゃない」とわかる人はわかるとは思うけれど、もしそうでない人で、この本に何かのハウツーを求めようとして買おうとしていたらやめたほうがいい。

 この本は、いかに世間で肩身を狭くして生きていくべきか、ということについて書いてある。

 もちろん、森さんとしては「自分が正しいと思ったことを自由に言ったりやったりすること」で肩身の狭い思い(どころか不当に逮捕されたり!)をするのは間違っていると信じている。その状況を打破するためには1人1人が、ふと我に返って考えて、自分をがんじがらめに取り巻いている何か(無言の圧迫みたいなもの)から自由になるべきだ、それで肩身の狭い思いをするのは正しい!と主張しているわけである。

 意味も規模も違うが、私なんかはたとえばサッカーのW杯の時などは無条件に「日本の相手チーム」を応援してしまうし、高橋尚子の走りには感動できないし、家の中が汚いことや冠婚葬祭のことごとくに義理を欠くのも別に何と言われたっていいから肩身も狭くない。なのでこの本もごくふつうのことを書いてあるなあと思う。のだけど、私は自分が正しいと思っていることについて私と意見の違う人と論争する気になれないし、論争したら気弱なので負ける。それがイヤだから黙ってるのだ。つまりやはり何かをこわがって、言いたいことを言わないでいるのだ。

 この本は「思考術」だけど、「行動術」となったら実行は大変だろう。でも思考ですらずらせない人がいるからこういう本も有効かもしれない。しかしそういう人はそもそもこういう本に手を出さないだろうなあ。となると、ハウツー本だと思って間違って手にとってもらったほうがいいのか。

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