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新書の穴

ヨーロッパの庭園―美の楽園をめぐる旅 [著]岩切正介

[掲載]週刊朝日2008年04月25日号
[評者]海野弘

■庭園とは“神々の楽園”に迫った空間なのだ

 人はなぜ庭をつくり、庭を楽しむのだろうか。この本の副題「美の楽園をめぐる旅」が示しているように、庭は〈美の楽園〉である。しかし、エデンの園がそうであるように、楽園は、はじめは神がつくったものであった。アダムとイヴは、楽園を追放されてしまう。だから庭というのは、失われた楽園を人間がつくろうとする試みなのだ。

 人間がいかに神々の楽園に迫るものをつくれるか、というのが庭園の歴史だったのではないだろうか。この本は、ヨーロッパの庭園の豊かで複雑な歴史を非常に見通しよくすっきりとまとめている。古代エジプトとオリエントを起源とし、ローマ、中世を経て、16世紀のイタリア・ルネサンス庭園、17世紀のフランス幾何学式庭園、18世紀のイギリス風景式庭園という3つのくくりが示される。

 それぞれの様式、空間的意味も明快に説明されている。あとがきによると、ヨーロッパの庭園の全体をバランスよくたどる通史として書かれ、記述も思い切って刈り込み、明快さを意図したという。狙い通りの庭園史となっている。

 特に18世紀からのイギリスの庭園については、この本の半分が当てられているので読みごたえがある。私自身は、このところ、ロマン主義とファンタジーについて考えているので、イギリスの庭の問題が参考になった。

 たとえば、トールキンの『指輪物語』には〈中つ国〉(ミドルアース)というファンタジー世界があらわれるが、それは人間のつくる楽園としてのイギリス庭園のイメージから強い影響を受けているのではないだろうか。

 この本はヨーロッパの庭園の多様な空間をすっきり読み解いてくれるが、さらに、庭がヨーロッパの文化の結晶でもあることを示してくれる。庭園は、文学や美術、演劇などとも密接な関係を持っているのだ。

 そして庭園という別世界をつくり出してきた〈庭師〉という不思議な人々の結社について、もっと知りたいといった思いに誘われた。

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