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無類の本好きという寺田農さんと、毎日必ず1冊は読む読書家としても知られる直木賞作家の桜庭一樹さん。桜庭作品の愛読者と、そんな寺田さんにずっと会いたがっていた桜庭さんの“相思相愛”の対談が実現しました。初顔合わせながら、大好きな本の話だけに、のっけから盛り上がった様子。2人が愛するのは一体どんな作品なのか? 小説に求めるもの、そして、あえて求めないものとは? とても奥深い、まさに刺激的な読書談義をお楽しみください。
寺田 僕が最初に桜庭さんの本を読んだのは、確か『少女には向かない職業』でした。新幹線で移動する間に読む本がほしくて、たまたま手にとったら、これがもう、面白くて。そこから桜庭さんの小説を読むようになったんです。
桜庭 ありがとうございます。
寺田 『赤朽葉家(あかくちばけ)の伝説』が直木賞の候補になって、結局その次の『私の男』(文芸春秋)で取って。受賞した時は自分のことのようにうれしかったですね。まあ、僕はなぜ『赤朽葉家――』が取らなかったんだろうと思っているんだけれど(笑い)。
桜庭 『赤朽葉家――』は、ミステリーに定評のある東京創元社から刊行した本ですが、自分がずっと読んできた版元から本が出せたことが本当にうれしくて。東京創元社の本が直木賞候補になること自体、まだ2回目だと聞いて、賞が取れたら長年の読者としても恩返しができるな、と思ったんですけれど。ただ、『私の男』も私の中では同じくらい大事な小説ですね。
寺田 どちらも面白いものね。僕は文学も芝居も美術も音楽も、すべからくものを作る世界って「花も実もある嘘(うそ)ばかり」というのがいいと思っているんです。桜庭さんの作品はまさにそれ。『少女七竈(ななかまど)と七人の可愛そうな大人』の七竈なんて名前や、『赤朽葉家――』の鞄(かばん)なんて名前が一体どこにあるんだよ、っていう。もうそこだけで、作品の世界に誘われていきますね。
桜庭 戯曲を読むのが好きなので、その影響はあると思います。シェークスピアやテネシー・ウィリアムズやアーサー・ミラーを読むと、まず舞台装置があって、テーマのために必要な、極端なキャラクターの人間がいる。とても分かりやすいんですよね。『赤朽葉家――』も舞台装置のように港や工場や屋敷をおき、そこに役者さんを配置していく感じでした。リアリティーを追求した小説のよさもありますが、自分は面白い嘘をつこうと思っています。テーマを伝えるためには嘘も必要だなと思うので。
■問いかけゼロの魅力
寺田 そういう姿勢って、すごくいいと思うんだよね。芝居もそうだけれど小説も、僕は作家が自分自身のことを表現しようとするのが嫌いなんです。別にその作家のすべてが見たいわけじゃないのにさ。個人的につまらないと思うのは「ねえねえねえ」と問いかけてくる小説ですね。
桜庭 読者に共感を求めてくる小説、ということですか。
寺田 そう。「ねえ、こう思わない?」って深みのないところで言われても、どうでもいいよ、と思う。なのに共感しちゃう自分がいたりして、余計腹が立つんだけれどさ(笑い)。最近は問いかけの小説が多すぎるように思います。もっと「人のことは知らないけれど自分はこう書く」という姿勢の作家がいてほしい。桜庭さんはそういう意味で、問いかけゼロだから好きですね。吉田修一さんなんかも全然問いかけてこないところがいい。
桜庭 吉田さんの小説では、何がお好きですか。
寺田 いろいろあるけれど『長崎乱楽坂』なんか好きですねえ。それこそ刺激的な小説です。極道の一家が出てきて、もうハチャメチャで、「こんな奴(やつ)いるわけないだろう」というあたりが、花も実もあってとてもいいんですよ。
■新しい方法論に衝撃
桜庭 『赤朽葉家――』を書いた時には、G・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が頭の中にありました。本当に大好きな作品なんです。小説でも演劇でも、ある時まったく新しい方法論を見つける人っていると思うんです。マルケスが最初かどうかは分からないのですが、彼のあの、出来事を凝縮して圧倒的なリズムでつづる書き方を読んだ時に、こんなものは今まではなかった、と思いました。決して短い話ではありませんが、百年分の一族の話としては異例の短さだと思いますし。
寺田 優れた小説を書く人は、優れた小説を読んでいるんですね。辻原登さんなんかは近代小説、特にヨーロッパの小説を読んでいなければ小説なんて書けるわけがない、とまで言うからね。確かに彼の作品には独特の世界観があって、それがとても魅惑的なんですよね。最新作の『許されざる者』も面白かった。桜庭さんにはマルケス、辻原さんにはスタンダールたちがいて、それをどうにか乗り越えていこうとするから、いい作品を書くことができるんでしょう。
桜庭 辻原さんの作品を読んでいると、いろんな小説を読まれてきたんだろうなという気配は感じるのですが、その影響がどう咀嚼(そしゃく)されているのか全く分からないですね。たぶん今生きて書いている日本の作家の中で、一番先の展開が読めないし、どんな方法論にのっとっているのか分からない方だと思います。その知識とオリジナリティーが、とても刺激的というか。
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てらだ・みのり 俳優 42年生まれ。68年に『肉弾』で毎日映画コンクール男優主演賞。数々の映画や舞台、テレビドラマに出演。08年4月から東海大文学部文芸創作学科の特任教授を務める。
さくらば・かずき 作家 71年生まれ。99年に作家デビューし、07年に『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年に『私の男』で第138回直木賞を受賞。近著に『ファミリーポートレイト』(講談社)。
著者:桜庭 一樹
出版社:東京創元社 価格:¥ 609
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