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韓流 ドラマ大国の舞台裏(1) 当事者たちが語る韓国ドラマのリアル

朝日新聞出版

2011年07月25日

写真:ドラマ「ジャイアント」制作中のSBS撮影センターAスタジオ。「ふっふっふっ。この一帯の埋め立て工事が全部こっちのものになれば……」。野望をたぎらせる「大陸建設」社長の顔がモニターに映る(撮影 Lim Dang)拡大ドラマ「ジャイアント」制作中のSBS撮影センターAスタジオ。「ふっふっふっ。この一帯の埋め立て工事が全部こっちのものになれば……」。野望をたぎらせる「大陸建設」社長の顔がモニターに映る(撮影 Lim Dang)

写真:SBS撮影センター内のメーキャップ室(撮影 Lim Dang)拡大SBS撮影センター内のメーキャップ室(撮影 Lim Dang)

写真:KBSドラマのポスターが並ぶ写真の真ん中が、2010年前半最大のヒットドラマ「怪しい三兄弟」だ(撮影 Lim Dang)拡大KBSドラマのポスターが並ぶ写真の真ん中が、2010年前半最大のヒットドラマ「怪しい三兄弟」だ(撮影 Lim Dang)

写真:のどかな農村の山裾に作られたオープンセットで昼夜問わずの撮影が続くMBC「トンイ」(撮影 Lim Dang)拡大のどかな農村の山裾に作られたオープンセットで昼夜問わずの撮影が続くMBC「トンイ」(撮影 Lim Dang)

写真:MBC「トンイ」の撮影現場(撮影 Lim Dang)拡大MBC「トンイ」の撮影現場(撮影 Lim Dang)

写真:KBS「風が吹いて、いい日」。撮影当日にメールで届いた台本を手に、台詞を覚え込もうと懸命だ。(撮影 Lim Dang)拡大KBS「風が吹いて、いい日」。撮影当日にメールで届いた台本を手に、台詞を覚え込もうと懸命だ。(撮影 Lim Dang)

写真:ソウルの喫茶店を借りたSBS「コーヒーハウス」の撮影現場(撮影 Lim Dang)拡大ソウルの喫茶店を借りたSBS「コーヒーハウス」の撮影現場(撮影 Lim Dang)

表紙画像 出版社:朝日新聞出版 価格:¥ 1,500

 「韓国ドラマの視聴率女王」に会った。全70話の最終回を前日書き終えた解放感か、彼女は実に自信満々、かつ冗舌だった。

 ソウル、高級ホテルのレストラン。インタビュー嫌いで評判の「女王」は、筆者と目が合うと、にやっと笑った。「一杯飲んだほうが話しやすいわね」とまずビール。「さ、あとは手酌でいきましょ」。

 ムン・ヨンナム。40代。1992年デビュー。人呼んで「視聴者を自由自在に操る名人」。韓国スポーツ紙によると「ここ5年で最も高視聴率を稼いだドラマ作家」。1編のギャラが5千万ウォン近いとの話も。2010年前半の視聴率トップを独走、40%近い視聴率を稼いだのが、彼女の「怪しい三兄弟」(KBS)である。

 優柔不断で分別なしの長男、親に偏愛された兄への反発からドケチの実業家になった次男、真面目な三男を中心にその妻、両親、周囲が織りなす愛、対立、和解の物語だ。スター俳優はゼロ、芸達者が顔をそろえる。

 「格好だけのスター俳優はいらない。台詞を消化してくれる俳優がいい。ムン・ヨンナムだからヒットした。そういわれることが私のプライドよ」

 姑が次男の嫁に自分の流儀を押しつける。嫁は耐えられずに家を出る。新たに同居した長男の嫁は義母をやりこめ立場は逆転、次男は不倫の道に……。

 日韓で活躍するタレント、ヘリョンは言う。

 「韓国は儒教の国で姑の力が強い。嫁の立場に自分を重ね合わせて見ました。もう普通の恋愛ドラマなんて面白くなくなる。私個人は姑と仲いいけど、韓国は上下関係が厳しいんです」

 物語は終盤、和解に向かうが、「社会や家族の規範を逸脱しすぎ。やりすぎだ」とメディアのヤリ玉に挙げられた。が、ムンの「視聴者は私を支持してくれる!」という自負は揺るがない。

■マッチャンドラマ

 「私のドラマを見てくれるのは普通の庶民。多くの人に見てもらえるよう努力するのは作家の義務。見てもらえないドラマは電波の浪費よ」

 「女王」は速射砲のようにズバズバと「わがドラマ哲学」を語り続けた(詳細は「いま会いたい!韓流スター (AERA Mook)」126ページ)。

 韓国はドラマ大国だ。KBS、MBC、SBSの地上波3局の番組欄はドラマだらけ。「月火」「水木」「土日」と週2日のペースで夜8〜10時台のドラマがまずある。うち土日夜のMBC、SBSは2本ずつ。また3局とも朝・夜に月〜金の連続ドラマがある(KBSの朝は土曜まで)。

 しかも見逃した人のため日曜昼などに頻繁に再放送。新聞、雑誌でもドラマ記事は定番で、放送時間が重なるドラマの視聴率競争は格好の話題だ。

 「怪しい三兄弟」への批判に、一部メディアが多用した造語が「マッチャンドラマ」だ。「マッチャン」とは炭鉱の坑道の行き止まりのこと。転じて「そこまでやるか」の意味である。

 最初に「マッチャンドラマ」と非難されたのが、09年前半最大のヒット「妻の誘惑」だ。

 金持ちのドラ息子ギョビンと結婚した貧しい家の出のウンジェは、姑に徹底的にいじめられる。そこにウンジェの友人エリがメイクアップ・アーティストとしてパリから帰国。エリはギョビンをウンジェから奪い、ウンジェは2人に殺されかける。溺死寸前で助けられたウンジェは復讐を誓い、別人に成りすましてエリと対決していく……。

■ドラマは何でもありだ

 別人になったはずのウンジェが、実際は顔にホクロをつけただけなのに、誰も彼女だと気付かない不自然さ。ドロドロの人間関係。それが批判の的にされたが、事件が次々起きる展開が若い層も巻き込み、月〜金の夜7時台という時間帯にもかかわらず40%超の高視聴率、放送は129回で幕を閉じた。

 作家とストーリー、キャラクター作りに取り組み演出したのが、SBSのオ・セガン。

 「人は愛すればどこまで愛せるか、憎めばどこまで憎めるか。そんな人間心理を掘り進めた。ドラマは仮想世界。だからこそ成立する自由さがなくてはならない。現実を忘れ、感情移入し、爆発して見るのがドラマ。そう見てもらえたら本望だ」

 ラフな服装、鋭い眼光、率直な物言い。「オレはドラマで飯食ってる」と言い出しそうな、ドラマ屋魂の男である。

 「ドラマに高尚さばかり求めるのは偽善だ。だいたい教授、記者、政治家、官僚といった指導層の連中は高尚なフリが好きなんだ。『妻の誘惑』がマッチャンなら、アメリカの『セックス・アンド・ザ・シティ』だってマッチャンだろう。なぜあれが立派といえるんだい?」

 そのオが統括プロデューサーを務めたドラマ「ジャイアント」は、韓国が高度成長を突き進んだ1970年代、ソウル江南の再開発に絡む野望と不屈の根性を描く。撮影はソウル近郊にあるSBS撮影センターで行われた。

 同じ時間帯で挑戦を受けて立ったのがMBC「トンイ」。朝鮮王朝時代、貧しい階級に生まれた女性トンイが困難を克服、王に愛され次代の王を産み育てていく。演出は「宮廷女官チャングムの誓い」など歴史劇の巨匠イ・ビョンフン。

 10年3月下旬の放送開始時は12%台だったが、5月になって25%台と視聴率は好調に推移した。ソウル中心部から車で1時間半、農村に広がるMBCの広大な歴史劇専用オープンセットでの撮影を陣頭指揮していた66歳、現役バリバリの巨匠は「視聴率は、ドラマ演出家としての誇りの問題だ」と言い切った。

 大衆文化の華、テレビドラマの世界。だが韓国の撮影現場は日本より遥かに過酷だ。撮影と編集、放送が同時並行で進む、別名「生放送ドラマ」である。

 「うーん、もう!」

 ソウルのKBS別館のスタジオ。ソファに座った母親役の女優が地団太を踏んだ。紙切れを取り出し、ブツブツつぶやき、また本番に臨む。連続ドラマ「風が吹いて、いい日」。息子に母が「結婚に愛なんか必要ない。婚約を破棄しなさい!」ときつく言い渡す場面の撮影だ。

 手にしたA4の紙切れ、実はこの日届いた台本だ。疲労困憊の作家がメールで送ってきたのは午前11時。いやー、暗記に苦労するのも無理はない。

■ドラマ成功の陰に日本

 「みんな信じられない状況で仕事している。きのう撮って、きょう編集、放送の場合もある」

 とKBSドラマ制作局長イ・ウンジンはいう。

 ドラマ制作はテレビ局の編成決定からスタートする。70分で16〜20回放送の「ミニシリーズ」の場合、準備2カ月、事前撮影2カ月。3、4回分出来るとすぐ放送開始。これでもまだ準備のいいほうだ。

 俳優も楽じゃない。

 「韓国人の友人が09年12月、日本に来る飛行機でイ・ビョンホンさんと一緒になった。彼は韓流イベント出演のための来日。でも『アイリス』(KBS)の撮影で4日間徹夜続きでフラフラ。イベント終了後にはトンボ返りしてまた撮影。ドラマ見てるとわかるんです。本当に疲れ切ってるのが」(ヘリョン)

 なのに、これまでドラマがパンクしたことがないというのだから驚きだ。「早撮りの瞬発力」「本番の突破力の強さ」。これが韓国ドラマのパワーか。

 むしろ撮影しながら放送されるからこそ、ネットや家族の反応を物語に反映させる「フィードバック」も可能なのだと関係者の誰もが口にする。

 「アイリス」では、北朝鮮の女工作員役キム・ソヨンの演技が好評で、イ・ビョンホン、恋人役キム・テヒとの三角関係を強調する話が盛り込まれた。ビョンホンは最終回で銃撃されて死ぬが、結末は演出陣や作家の間でギリギリまで議論が続いた。

 「もし続編で生き返らせるなら新たなストーリーが要るね」(演出のキム・ギュテ)

 一方で、MBCのドラマ局長チョン・ウニョンが韓国ドラマ制作の「現実」を語る。

 「終盤、ドラマの質が落ちる懸念はある。だが撮り直すほど制作期間が延び費用がかさむ。短い準備期間で一気に撮れば制作費も抑えられる。俳優の拘束期間も減る。しかも、事前に作ったドラマが成功した例がない」

 チョン局長は06〜07年の大ヒット作「朱蒙(チュモン)」(ここ5年間の平均視聴率1位)を企画。総制作費は300億ウォン以上かかったが、成功したのは「日本に韓国ドラマの市場(放送、DVD販売、レンタル)が生まれたのが大きかった」。

 だがいま、ドラマ制作費の高騰が業界を揺るがしている。それには「日本」が深く関わっているのだ。

■冬ソナが業界を変えた

 韓国ドラマの大半は独立の制作会社が作っている。かつてはテレビ局が独占制作していたが、91年に全放送時間の一部を外注制作するよう政府が局に義務づけ、01年にはそれが15%以上に広がった。人気演出家が局を離れ、次々と制作会社をつくった。

 状況を劇的に変えたのが「冬のソナタ」(02年、KBS)。03年にNHKでBS放送されると日本列島に社会現象的な「韓流旋風」を巻き起こす。

 90年代半ばに韓国ドラマは台湾、香港、中国で人気を集め始めた。「韓流」も中華圏で生まれた言葉だ。だが日本でビジネスになるとは業界の誰も想像だにしなかった。

 「『冬ソナ』は、実は中国市場狙いで僕と演出家が協力して企画した。雪とスキー場を舞台背景にしたのはそのためだ。僕はチェ・ジウのマネジメントを担当し、日本映画『Love Letter』の主演女優(中山美穂)を参考にドラマを作ろうとした」

 舞台裏を話すのはドラマや映画を手がける大手制作会社iHQのドラマ事業本部長チャン・ジヌク。「スター製造機」の異名を取る業界の顔である。

 「冬ソナ」人気を機に韓国ドラマは続々と日本に上陸、外注制作会社は増え続けた。05年に外注義務比率は拡大(35%以上)、業者は500社以上に急膨張する。

 「その結果、有名作家や人気俳優を確保しようと制作会社がこぞって高額を提示した。局によるドラマ編成の決め手は作家と俳優だからだ。500万ウォン程度だった1編当たりの作家のギャラは最低でも2千万ウォンに跳ね上がった。制作費が瞬く間に倍になった」

■日本での稼ぎ当て込む

 ドラマ制作会社は、まずテレビ局から制作費を受け取る。そのほか独自に企業から、間接広告(ドラマの中で商品を見せる広告形態。略称PPL)、企業名だけを番組枠で出す「協賛表示」を集め収入を得る。チャンによると、様相が一変したのは07年。

 「06年制作のドラマでは局から1回当たり1億ウォンを受け取った。20回放送で計20億。実際の制作費は18億で済み、PPLや協賛などで計17億稼いだ。ところが07年、同じ20億もらっても、ギャラの高騰で制作に28億かかった」

 国内収入だけではドラマ制作がペイ困難になったのだ。頼りにされだしたのが日本へのドラマ販売。日本への販売料は制作会社とテレビ局が四分六、五分五分で分けられることが多い。これが制作会社がドラマ制作を黒字にできるかどうかのカギとなった。

 ペ・ヨンジュン2億5千万ウォン(「太王四神記」1回当たり)、イ・ビョンホン1億ウォン(「アイリス」同)、ソン・スンホン7千万ウォン……(朝鮮日報10年6月7日付)。彼らの収入は韓国の人気に基づくものではない。「日本でいくら稼げる」と当て込んでのものなのだ。

 大作が日本で期待ほどの収益が得られずコスト超過となり、倒産した制作会社も少なくない。3年の制作期間をかけた「太王四神記」(07年、MBC)は韓国では高視聴率を記録したが、海外収入ではペイできず、スタッフが賃金未払いを訴える騒ぎも起きた。ドラマの賃金未払い問題はいまや珍しくない。

 力のない制作会社はバタバタつぶれた。いまドラマを作っているのは25社ほど、うち大手10社がドラマ全体の7割を作っているという。

 韓国ドラマのビジネス事情に詳しい編集プロダクション経営キム・ジョンホによると、日本の業者の韓国ドラマの買値は1編当たり2万〜7万ドル。これといった韓国ドラマの大半は買い尽くされた状態だ。

 「韓国ドラマは世界約20カ国に売れる。だが日本の買値だけで、残る国の合計を上回るのが珍しくない。韓国での放送前に売買されるものもよくある」(チャン本部長)

■制作会社と局の対立

 韓国ではドラマの中にCMを入れるのは禁止、CMは本編の前後に並ぶ。CM比率は放送枠の10%まで。不況とメディアの多様化でCMがかつてほど売れないのは日本と同じだ。

 しかも、CMは政府傘下の韓国放送広告公社を通じて売るよう義務づけられ、単価も同公社が決める。軍事政権時代の1981年に始まった制度だが、「広告販売の自由化を求めてきたが、民主化以降も、時の政権がテレビ局を統制しようと手放さなかった」(テレビ局幹部)と局側の不満は強い。

 「制作費高騰のためドラマで黒字が出せない。作るのは我々だ。著作権を認めてほしい」と訴える制作会社。「制作費高騰は制作会社自身の経営責任だ。こちらは可能な範囲で制作費を出している」と主張するテレビ局。双方の対立は続く。

 「ペ・ヨンジュンは今も日本とのドラマビジネスでは最強のカードだ。だが彼はドラマに出ない。日本での権利をすべて手にする条件を得ない限りはだ。なら我々は彼を使えない。だから彼は自ら制作に乗り出した」

 チャン・ジヌクが続ける。

 「なぜ日本が魅力か。ドラマの付随ビジネスが可能だからだ。韓国ではDVDはビジネスにならない。みんなネットでダウンロードする。写真集など誰も買わない。でも日本のファンは高価なDVDボックスを買う。ドラマがパチンコのキャラクターにもなる。肖像権の話がつけば巨額のビジネスだ」

■不屈のドラマ作りが続く

 現場の闘いはきょうも続く。月火ドラマ「コーヒーハウス」のロケがソウル江南の洒落たコーヒーショップで行われていた。主演のひとりハム・ウンジョンが店員と会話をかわすシーンだ。

 筆者が現場を見たのは金曜。この週の月火に放送が始まったばかりなのに、番組編成の遅れと準備不足のせいで、もう来週放送の撮影に追われている。

 「あした土曜に来週月曜分を完成させ、月曜に、翌火曜分を完成させる。きのうまで12日間家に帰れなかった。こんなドラマ作りは韓国だけだよ」

 各国でヒットした「フルハウス」の演出で知られるピョ・ミンスはぼやき、ニヤッと笑いを返した。そして黙々と脚本をチェックし始めた。(文中敬称略)

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