タルコフスキーの映画「惑星ソラリス」は衝撃的だった。SF映画がこんなに思索的で深遠なものだったなんて知らなかった。冒頭に首都高が未来都市として出てくるのには苦笑したけれども。その後、原作の『ソラリスの陽のもとに』を読んでさらに強い衝撃を受けた。純文学が高尚で、SFやミステリーは一段劣るもの、という考え方は無知からくる偏見でしかないと思い知らされた。
そのSF作家、スタニスワフ・レムが3月の末に亡くなった。84歳だった。
『天の声・枯草熱』は、一昨年から刊行が始まった「スタニスワフ・レム・コレクション」の第3回配本である。収録されている2つの長編小説は、以前、サンリオSF文庫で出ていたが、いまは絶版。古書店ではびっくりするほど高い値段がついていた。本書は沼野充義が若干の訂正を加えている。
『天の声』は宇宙の彼方から謎の信号が送られてくる、という話。信号を解読してその指示にしたがうと生命体ができる。しかし、そこで研究者たちは、はたと悩む。何ゆえ宇宙人はこんな信号を送ってきたのか。そもそも、誰かが意図的に送ってきたという確証もないではないか。やがて研究は挫折していく。
『枯草熱』は連続怪死事件を解明する元宇宙飛行士の話。被害者に共通しているのは、孤独な旅行者で中年男、禿、そして枯草熱。枯草熱とは花粉症のことだ。初訳が出たころ、花粉症という名称はまだ一般的でなかった。
この2作を1冊にまとめた編者のセンスに感服する。というのも、どちらも(西洋的)近代的思考の根底に疑問を突きつけるものだからだ。『天の声』は理性が普遍性をもつかどうかを、『枯草熱』は世界を支配しているのが偶然性なのではないかということを、それぞれ提示している。
解説で沼野充義が「〈9・11以後〉にこそ読まれるべき」と述べているのは正しい。理性と必然性を自明の理とするのがグローバリズム、の前提なのだから。