■低賃金労働者の実態をルポ
稼ぎに追いつく貧乏なし、と昔の人は言った。だから、貧困とはイコール失業であり、仕事さえあればなんとかなると思われてきた。仕事を作るために、企業を生き延びさせるために、規制緩和の苦い汁だって少しは我慢してきた。だが、働いても働いても暮らしていけないとしたら……?
バーバラ・エーレンライクの『ニッケル・アンド・ダイムド』は、アメリカの著名コラムニストが低賃金労働者として生活してみた、というルポルタージュ。昔、鎌田慧の『自動車絶望工場』(講談社文庫)というすぐれた潜入ルポがあったが、さながらその現代アメリカ版である。
その過酷な体験の具体的な内容は本書を読んでいただくとして、呆然としたのは、いちど貧困状態に落ち込むと、這い上がるのは不可能に近いという現実だ。求人はある。しかし、給料が安すぎて、働き続けられる人は少ない。著者はフロリダ州でウェイトレスを、メイン州で掃除婦を、ミネソタ州ではスーパー(あのウォルマート!)の店員として働く。時給は6、7ドル程度だ。これではとても暮らしていけない。
最大の問題は住むところ。まともなアパートなど望むべくもなく、劣悪なモーテルやトレーラーハウスで夜露をしのぐ。それでもカネが足りなければ、複数の仕事を掛け持ちするしかない。怪我をしたり病気になるとおしまいだ。著者とともに働く人びとは、現状をしかたないとあきらめているようだ。階級格差の現実に疑問を感じたり怒りを抱くこともない。アメリカはアフガンやイラクに爆弾の雨を降らせるだけでなく、国内のこうした人びとを踏みつけて世界の支配国になってきた。
最近、「ワーキング・プア」という言葉をよく目にする。働いても貧しい人びと。しかし、ことは対岸の火事ではない。好調を伝えられる日本の大企業も、現場は偽装請負などがはびこる。努力した人が報われる社会に、と新自由主義者たちは言うけれども、報われるのは上流の人々だけだ。