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パール判事 [著]中島岳志

[掲載]週刊朝日2007年09月07日号
[評者]永江朗

■東京裁判と平和憲法

 安倍首相はインドでパール判事の長男に面会する。この原稿を書いている時点では「する予定」だが、たぶん本誌発売のころは「した」になっているだろう。

 「靖国参拝の代わりにパール参拝?」なんて声も聞かれる。パール判事といえば東京裁判で被告人全員無罪を説いた人である。安倍首相の思惑はわからないが、戦後レジームからの脱却を掲げる首相の、東京裁判否定のパフォーマンスなのかもしれない。

 パール判事の名前はしばらく前から、右派による「大東亜戦争」肯定論の文脈でよく使われるようになった。あの戦争は欧米列強支配からアジアを解放する戦いだったのだ、正義の戦いだったのだ、と。その真意を分かってくれたのはパール判事だけだった、と。だが、パール判事はそういう人だったのだろうか?

 中島岳志『パール判事』は、こうした右派による都合のいいパール判決の切り貼りと利用を真っ向から否定する本である。彼の生涯と思想、そして東京裁判批判の真意について書かれている。

 重要なのは、パール判事が熱烈なガンジー主義=絶対平和主義者だったこと。判事が「大東亜戦争」を肯定したことなどまったくない。しかも、彼は南京虐殺をはじめ日本軍の残虐行為を事実と認定し、激しく非難していた。彼がA級戦犯容疑者を「無罪」としたのは、「平和に対する罪」が事後法だから、という原則論からである。A級戦犯たちがやったこと・やらなかったことを、道義的に許していたわけではない。また、BC級戦犯の刑事上の責任を認めている。

 もちろんパール判事が東京裁判に批判的だったことは明らかだ。侵略や植民地支配をしたのは日本だけでない。戦争に負けた側だけが裁かれるのは公正ではない。長年、イギリスに支配されたインドの人だけに、痛切なものがあっただろう。だからこそ日本による侵略や植民地支配も許せないと思っていたのではないか。パール判事の願いは日本が再軍備せず平和憲法を守り続けることだったという。

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