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KY式日本語―ローマ字略語がなぜ流行るのか [編著]北原保雄

[掲載]週刊朝日2008年02月29日号
[評者]永江朗

■KY式日本語はムラ社会志向の表れ?

 とうとうこんな辞書まで刊行される時代になったのか。

 北原保雄編著『KY式日本語』は、最近のローマ字略語を集めた本。同書は北原編『明鏡国語辞典』(大修館書店)のキャンペーン「『もっと明鏡』大賞 みんなで作ろう国語辞典!」に寄せられた実例を基にしている。ベストセラーになった『問題な日本語』シリーズの姉妹編みたいなものだ。

 KY式日本語というのは、「KY=空気読めない」っていうあれだ。「AM=後でまたね」とか、「ND=人間としてどうよ」とか、「3M=マジでもう無理」なんて言葉が並んでいる。

 もっとも、「この辞書を熟読して、娘/息子とのコミュニケーションを活発にしよう」「若い部下たちを理解しよう」などと思ってはいけない。こういうのは言葉の遊びであって、日本全国の少年少女が本当に日常的に使っていると思うのは大間違いだ。隠語であり、限定的な集団内だけで使われる。

 いい年をした大人が、若者文化に理解あるふりをして「ODD(=お前、大学どうする)?」などと語りかけても、失笑を買うだけである。本書のタイトルになった「KY」にしても、週刊誌や新聞など一般向けメディアが使うのはかなり恥ずかしい。隠語を一般社会で使う恥ずかしさに加えて、ひと昔前の流行語を使う恥ずかしさがある。ご用心。

 本書のポイントは、珍妙なKY語を蒐集したところにではなく、第一章の「KY式日本語を理解するために」や、第二章の主要KY語につけられたコラムにある。KY語は婉曲な表現であり、狭いサークル内で用いられる、いわば閉じた言葉だ。言葉の論理よりも文脈に依存する。簡単に言えば、「以心伝心。みなまで言うな」の世界である。その意味でKYは象徴的だ。空気を読まない者は共同体から排除される。ネットやメールで広く繋がるかのように見えて、じつはコミュニケーションの幅は狭くなっているのだ。若者たちは、個の確立ではなく、ムラ社会を志向しているみたいだ。

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