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ダライ・ラマ自伝/チベットわが祖国 [著]ダライ・ラマ

[掲載]週刊朝日2008年04月18日号
[評者]永江朗

■まるで冒険小説のようなダライ・ラマの人生

 チベット自治区の騒乱が止まらない。騒乱は新疆ウイグル自治区などにも広がっている。いや、騒乱というよりも民衆蜂起と呼ぶべきだろう。北京オリンピックを控えて中国政府はピリピリしている。これまでのような強い弾圧に出ると、オリンピックをボイコットする国が出て中国の面目は丸つぶれになる。かといって放置すれば、チベットのみならず非漢民族の独立運動が活発化する。中国政府はダライ・ラマが陰謀の親玉で自分たちが被害者であるかのような報道を繰り返すが、もちろんそんなことを信じる人はいない。

『ダライ・ラマ自伝』は、一宗教人の自伝であることを超え、大国の欲望に翻弄されたチベット民衆の近代史ともいうべき本だ。同様の本としてダライ・ラマ『チベットわが祖国』もある。原著の出版は『〜自伝』が1990年、『〜祖国』が83年である。

 事情を知らないと、チベットは元々中国の領土だと疑いもなく信じてしまうかもしれない。だが、チベットは中国ともインドとも異なる独自の文化を築いてきた。チベット仏教の最高権威で観音菩薩の化身とされるダライ・ラマが、宗教と政治の両方を司ってきた。

 毛沢東の中国共産党は「解放」を名目にこの地に入り込んだ。朝鮮戦争のどさくさにまぎれてのことである。たしかに「解放」の側面もあったかもしれない。しかし彼らは、信仰篤い人びとから宗教を取り上げ、仏陀のかわりに共産党に帰依することを押しつけようとした。以来、何度も独立運動が活発化し、そのつど弾圧が加えられた。

 中国との交渉、そして馬に乗っての決死の脱出行・亡命のくだりは、まるで冒険小説のようだ。これほど過酷な状況にありながらも、ダライ・ラマは反共ではない。資本主義に反対はしないが、社会主義や国際主義のほうが仏教思想により合致していると述べる。

 なぜ中国はチベットを侵略、占領し続けるのだろう。チベットのことはチベットの人にまかせておけばいいではないか。

    ◇

『ダライ・ラマ自伝』/山際素男訳

『チベットわが祖国』/木村肥佐生訳

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