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記憶に残っていること [編]堀江敏幸

[掲載]週刊朝日2008年9月19日号

  • [評者]永江朗

■クレスト入門の「お試しセット」としてどうぞ

 新潮クレスト・ブックスが創刊10周年をむかえた。同シリーズは現代の海外の小説とノンフィクションを紹介してきた。特徴は圧倒的な質の高さだ。ベルンハルト・シュリンク『朗読者』やジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』など、ベストセラーになった作品もあれば、ビーチ・ボーイズについてのノンフィクション『ペット・サウンズ』のような話題作もある。

 装幀も美しい。軽くしなやかなフランス装は、本を所有する喜びを実感させる。1点1点、装画が違っていて、出版予告を見るたびに「次はどんなカバー?」と期待させる。

 堀江敏幸編『記憶に残っていること』は、10周年を記念して編まれた短篇集である。クレストには120の短篇があるそうだが、そのなかから10編を堀江が選んだ。アリス・マンロー(この作家を私はクレストで初めて知った)の表題作をはじめ、ラヒリの「ピルザダさんが食事に来たころ」やシュリンクの「息子」も入っている。

 作家カタログ、クレスト入門の「お試しセット」として読んでもいい。デイヴィッド・ベズモーズギスの「マッサージ療法士ロマン・バーマン」は旧ソ連からカナダに移住したユダヤ人家族の苦労を題材にし、アンソニー・ドーアの「もつれた糸」にあるのは、釣りを口実に不倫に出かける中年男の悲哀だ。アリステア・マクラウドの「島」は、灯台守の女の一生をわずか40ページで描ききってしまう。見事だ。

 海外のすぐれた作品を翻訳し、さらにそのなかから10編を厳選したアンソロジーなのだからあたりまえなのだけれども、どの小説もすばらしい。作家のバックグラウンドも多様だ。1920年代生まれから70年代生まれまでまさに老若男女の作品が集められ、旧ソ連生まれや北京生まれで英語で書く非母語作家もいる。

 日本の現代作家の短篇で、このアンソロジーに入れるとしたら、誰のどんな小説だろうか。この本をモノサシにいろんな小説を読むのも一興か。

表紙画像

朗読者 (新潮クレスト・ブックス)

著者:ベルンハルト シュリンク

出版社:新潮社   価格:¥ 1,890

表紙画像

停電の夜に (新潮クレスト・ブックス)

著者:ジュンパ ラヒリ

出版社:新潮社   価格:¥ 1,995

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