[掲載]週刊朝日2008年12月19日号
■カレーから核保有まで、インドはかくも複雑なのだ
インド・ムンバイで起きた同時テロ。たくさんの人が亡くなり、建物などの被害も大きい。しかし、いったい誰が、何の目的で、となるとよく分からない。イスラム過激派によるものであること、彼らはパキスタンから来たらしいことぐらいが明らかになってきた程度だ。噂されるアルカイダとの関係もはっきりしない。
こうした大事件が起きてみると、私たちはインドについて知っているようで何も知らない、ということに気づく。同じアジアで仏教のふるさと、カレーも大好き、と親近感はあるのだけど、まさに近くて遠い国なのである。
エドワード・ルース『インド 厄介な経済大国』は、ジャーナリストによる現代インド論。著者はイギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズの南アジア支局長としてニューデリーに住んだことがあり、妻はインド人である。また、妻の母はデリー大学で教えていた歴史学者。つまり著者は、インドを外側からも内側からも観察・分析できる絶好の立場にいる。
複雑かつ渾沌。インド社会を一言であらわすとこうなるだろう。90年代以降、急速な経済成長を続けているが、一方で深刻な貧困問題を抱えている。レベルの高い医療を求めてアラブの富豪や、イギリス人の「医療観光客」がやってくる。しかし、農民の大多数はアフリカと同程度の生活水準で暮らしているという。
悪名高きカースト制度はいたるところに残っている。ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立も深刻だ。血なまぐさい事件が何度も起きている。今回のテロ事件ではユダヤ教施設も狙われた。宗教対立も複雑なのだ。忘れてならないのは、インドが長くイギリスの植民地だったという歴史である。さらに、インドとパキスタン、そして中国の外交関係もデリケートかつ複雑だ。互いに国境を接し、過去には武力衝突もあった。しかも三国とも核保有国である。
テロリストたちの動機は何なのか。そこが分からなければ、根本的な解決の道は遠い。
著者:エドワード・ルース
出版社:日経BP社 価格:¥ 2,520