本の世界に限ったことではないが、1つの作品に強く影響されて別の作品が生まれることがある。ある小説がコミック化、TV化、映画化といった他メディア展開されることもあれば、別のトリビュート小説、パロディ小説が生み出されることもある。ここ数年は、過去にヒットしたTV番組や映画を現代向けにリメイクされる作品も多く見られ、オリジナル版の映像やその原作が合わせて掘り起こされている。
この夏の大型企画としては『日本沈没』(小松左京著)のリメイク版の劇場公開があった。昨年12月には小学館から文庫が発行、公開直前の6月に電子書籍化されて、PC・ケータイでも読めるようになった。
初出は33年前、1973年。オイルショックの年である。光文社カッパノベルスより書き下ろしで発行された。上下巻合わせて400万部の大ヒットとなり、同年暮れに映画化されて社会現象を起こした作品だ。翌1974年、優秀なSF作品に対して授与される星雲賞日本長編部門を受賞した。
SFファンのあいだでは有名なエピソードだが、当時『日本沈没』のヒットを祝うパーティの席から誕生したパロディ作品がある。タイトルを星新一氏が考案し、著作者の小松左京氏の了解を得て執筆された短編『日本以外全部沈没』(筒井康隆著)が、同年文藝春秋発行の文芸誌「オール讀物」8月号に掲載された。オリジナルの『日本沈没』と並んで、1974年の星雲賞日本短編部門を受賞した。
そして33年後の現在、映画『日本沈没』に公式に便乗する形で、この作品も9月2日より劇場公開予定である。6月にはこの短編を含む『日本以外全部沈没〜パニック短編集』(筒井康隆著/角川書店)が文庫で発行された。
ところが、デジタル読書の世界では『日本以外全部沈没』はすでに1997年2月には電子書籍化されていた。収録されている全集や短編集などが長らく品切れ重版未定だったが、短編1話のみを切り出して流通させられるのはデジタルならではのメリット。『日本沈没』公開直前、話題が盛り上がってきた5月ごろからランキング入り。販売機会を損ねずにすんだ。現在もその売れ行きを堅持している。
冒頭部からフランクシナトラや東海林太郎など、当時の著名人が登場するところには時代を感じる。デジタル読書、とりわけケータイ読書に馴染んだ若い人たちに通じているのだろうかという疑問は残るものの、日本人の国際感覚を皮肉った筒井流ブラックジョークは、今の世相により通じるものがあるかもしれない。また一般的にパロディは本編を知らないと理解しかねる部分も多いが、本歌取りをしているのはタイトルと設定のみ。独立した作品として楽しめるが、ラストシーンでは本編を知りたくなるよう仕組んである。
長短/硬軟のちがいはあるにせよ、どちらも時代を超える、高いクオリティであることに変わりはない。1つを読めば、もう1つも読みたくなる。二卵性双生児のような作品だ。