11月1日。作家の永沢光雄氏が亡くなった。
出世作となった『AV女優』(永沢光雄著/文藝春秋 単行本初出はビレッジセンター出版局)は何かの賞を受賞したというわけでもないが、発行当初じつに70もの新聞・雑誌の書評で取り上げられた、骨太なノンフィクションである。
本作品に登場する女優は42人。アダルト雑誌などで5年にわたって掲載されたインタビューをまとめたものだ。1996年に単行本として発行され、一躍脚光を浴びた。AV女優という職業を選んだ女性たちが、自らの少女時代、生い立ちや性体験を語る。ドメスティックバイオレンス(DV)にあたるような虐待も見受けられるのだが、それを語る彼女たちに曇りを感じることがない。著者の力量で「素」の魅力が見事に引き出された硬質なノンフィクションである。アダルト的な要素を多分に含むタイトルでありながら女性読者からも支持され、1999年には文藝春秋から文庫化されて読者を更に広げた。
2002年6月にはPC・ケータイ向けに電子書籍化。底本は文春文庫。660ページ相当。1ファイルの容量としてはやや重く、デジタル読書向けには上下巻に分冊された。
ケータイ読書を専らとする若い女性層には、これだけのボリュームを読了するには無理があるのか、それとももっと過激な内容を期待されてのことなのか、電子書店の担当者からは上巻ほど下巻が売れないという話を聞く。残念なことだ。なぜなら巻末の「文庫版のためのあとがき」は、それだけで一編の作品として成立するほど高いクオリティを持っているからだ。
とてもあとがきとは思えない、長い長いエピソードである。文庫化を企画した編集者との交流について書かれている。ネタバレ覚悟でいえば、その編集者は文庫の完成を見ることなく急逝してしまうのだが、一冊の本を世に出すことについて、本そのものについて考えさせられる逸話である。編集者の人柄も著者の人がらも偲ばれ、だからこそ少女たちが著者に対しては素顔を見せることができたのかもしれないとも思える。
文庫編集者享年45歳。著者の永沢光雄氏は47歳。インタビューされた女優たちで今も現役という人もおそらくいないだろう。しかし彼らが紡いだ作品は、こうして今も残っている。
紙であれ、デジタルであれ、本にはそういう使命がある。