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文・落合早苗

1000年の時を超えて 写本から活字、そしてデジタルへ 『源氏物語』

2008年01月08日
[評者]落合早苗

 今年は源氏物語千年紀。作者とされる紫式部の日記において、寛弘5年(1008年)11月1日の条で若紫や源氏などの登場人物名が記されているのが現在確認できる『源氏物語』に関する最古の記録なのだそうだ。この時点で少なくとも「若紫」の帖までできていること、それが宮廷内で広く読まれていたことなどが推察でき、今でいう「初出」から1000年というわけではないが、世界に誇れる日本文学の大きな節目の年にはちがいなく、京都府を中心に多くの催しが企画されている。

 『源氏物語』といえば、ほとんどの日本人が古典の授業で触れたことのある作品。しかし、主語が省略された長い一文に、謙譲語と尊敬語が混在しており、現代人にとって文法はかなり難解。そのため苦手意識を持った人も多いだろう。

 世界的にも有名な日本を代表する文学であるためストーリー自体は周知されているものの、実際に通巻で読んだという人にはそうは出会わない。

 さて、この『源氏物語』、現代語訳ではあるが今はケータイやPCでも読める。2001年刊行の『源氏物語(新装版)』(瀬戸内寂聴/講談社 初出は1996年〜98年)を底本とするもので、2004年1月より10ファイルが順次デジタルファイル化された。それ以前にも2000年10月には、講談社と富士ゼロックスが共同でオンデマンド版を配信しているが、電子書籍版は注釈部分にリンクが仕込んであり、クリックひとつで参照できるのが便利である。

 11世紀当時、『源氏物語』が発表されていたころ、印刷技術がなかったわけではないが普及しているとはいいがたく、写本や口頭でこの作品は伝播されてきたものと考えられる。原本は現存しないが、人智を超える流れのなかで写本/巻物から活字/書籍へと変遷し、時に絵巻になり、貝合わせ(今でいうゲームか)になり、能にもなり、現代ではコミックや映像・舞台などの視覚的効果の高いコンテンツばかりか、文字ものすら再びページ概念のないデジタル作品になった。『源氏物語』の電子書籍は、コミックを含めると現在5作品が配信されている。青空文庫では与謝野晶子訳が公開されており、そのほかにも研究目的でデジタル化されているものも散見する。

 ご存知のように、原著はベタベタの長編恋愛小説。禁断の愛(しかも義母を妊娠させる!)あり、冷えきった夫婦生活あり、生き霊にすらなるほど(はっきりいってオカルト)の嫉妬の炎あり、幼女にすら執着する描写ありで、ストーリーだけを切り取るなら、教材向けというよりは、女性向けといった方がふさわしい。一種の連載形式と考えられ、仲間の女官から「つづきを楽しみにしているのよ」などという励ましの言葉を受けながら書き上げられてきた、CGM的な要素も多分に持っていたことだろう。当時は写本(コピー)を勝手に持ち出されるということもあったようだ。1000年を経て媒体が変わっても、人々が物語を受容していくさまはそれほど変わっていないということなのかもしれない。

 この機会にケータイで読んでみるのも一興。文学というものの本質が見えてくる、かも。

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プロフィール

落合早苗(おちあい・さなえ)
 株式会社hon.jp代表取締役社長
 学習院大学文学部卒。出版社・IT関連サービス会社等を経て2004年3月インプレス(現・インプレスホールディングス)入社。同月設立の100%子会社リーディングスタイル(現・hon.jp)に出向。丸善丸の内本店の電子書籍体験コーナーの運営や表参道のカフェを使ったケータイ読書プロモーションを企画実施。2006年10月より現職。日本ペンクラブ会員。日本出版学会会員。

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