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南野選手のトップクラブでの挑戦を記録した初の著書 講談社とリバプールFCのタッグで実現

重なったふたつの縁 リバプールの特別な協力下で取材、本人による写真も

 同書の編集者である講談社コーポレート企画部の神谷明子さんは、「ふたつの縁が重なり、この本を出版することにしました」と明かす。まず、ひとつ目の縁は、講談社はリバプールFCのオフィシャル・グローバル・パートナーであること。そしてふたつ目は、南野選手が講談社のパーパス(理念)である「Inspire Impossible Stories」のアンバサダーを務めていることだ。「南野選手はリバプールを離れることになりましたが、こうしてリバプールでの日々を本として残すことにより、これから先の彼に対するエールとしたいと思います」

 本書はリバプールFCの特別な協力の下、製作された。掲載内容としては、リバプールFCのホームスタジアムであるアンフィールドでの撮影写真を筆頭に、南野選手本人にも独占インタビュー。また南野選手自らが撮影した写真も掲載されており、ピッチ外での等身大の姿も映し出されている。

 本のタイトルにもある「Inspire Impossible Stories」とは、「物語の作り手と受け手の両者に新たな発見や創造性を提供し=Inspire、あり得ない、見たこともないような=Impossible、物語を生み出し、その物語がさらなる見たこともない現実を作る=Stories」 を意味している。そんな理念に南野選手も共鳴している。

 「リバプールでの南野選手のInspire Impossible Storiesを残しました」と神谷さん。本書は2020年1月に加入し、リバプールで約2年半を戦った南野選手の挑戦が詰まった1冊だ(21年2月からはサウサンプトンへ、半年間レンタル移籍をしていた)。

きっかけは不意に目にしたクロップ監督のインタビュー

 なお、担当編集の神谷さんは、リバプールFCグローバル・パートナーシップ担当という肩書きを持つ。つまりは、神谷さんが講談社とリバプールの関係性を開拓した人物ということだ。

 全ての始まりは、不意に訪れた。数年前、神谷さんがリバプールを率いるユルゲン・クロップ監督のインタビューを目にした時のこと。「こんなボスがいればいいな」とクロップ監督へのインタビューができないか模索していたときに、海外研修で滞在していたアメリカで知り合ったフェンウェイ・グループ(リバプールFCのオーナー会社)の担当者を思い出し、すぐに連絡を取った。話をしていく中でリバプールのサッカークラブとしてのモットーや理念に共感。講談社とリバプールがオフィシャル・グローバル・パートナーとしてタッグを組めるように、会社側にも自ら働きかけた。

 「感情をファンとシェアするプラットホームを作っている部分が出版社に似ているなと思いました。現地の方々にとって、サッカーは文化というか人生そのもの。出版社も漫画や書籍などのコンテンツを通して文化を生み出し、見ている人たちの人生を豊かにしている部分が似ています。また会社の中でコンテンツのグローバル化が奨励されていたことも関係し、相性がとても良かったです」

リバプールFCのビリーホーガンCEOと講談社の野間省伸社長

 講談社とリバプールのパートナーシップ契約は2021年6月からスタート。また講談社はリバプールFCが地域住民への教育活動や就業支援を実践しているリバプールFC財団(以下、LFC財団)と協力し、困難な環境にある学生の雇用機会を提供するプログラム「Creative Works」も立ち上げた。「Creative Works」では、クリエイティブに関心がある高校生に向け、地元のゲーム会社やデザイン会社がインターンシップの機会を提供するなど、学生たちがクリエイティブな仕事の入り口を案内する内容になっている。編集者という仕事があることも、知ってもらう機会も作れたらと神谷さんは語る。

アンフィールドに講談社製作の壁画も

 さらにリバプールFCと「コラボ感があった」と神谷さんも自負する両者の取り組みが、アンフィールド内に設置された講談社製作の壁画だ。幅11m✖️奥行き7m✖️高さ4mのスペースには、漫画「炎炎ノ消防隊」の作者である大久保篤氏の手がけた壁画が飾られている。

 イラストで描かれたストーリーは、クラブ側がピックアップした歴史に残る5つの劇的なシーン。その壁画にはクロップ監督を筆頭として、スティーブン・ジェラードら、そうそうたるレジェンド(クラブのOB)たちが描かれている。その中に南野選手の姿もある。

 「このシーンを選出したのはアンフィールドのデザインチーム。その中心の担当者がカラバオカップ準々決勝レスター・シティー戦での南野選手の同点ゴールを、躊躇なく、ラインナップしてくれました。それほど心に残っていたそうです」と神谷さん。国籍関係なく、南野選手の功績を称えるクラブ側の姿勢に、神谷さんは同じ日本人として誇らしく思えた。

外の世界をみるきっかけに

 「この本の南野選手の印税はご本人の希望により、LFC財団に寄付します」と明かした神谷さん。リバプールFCとの関係性が1つのきっかけとなって誕生した『南野拓実 Inspire Impossible Stories Book』を通して、読者に伝えたいこととは。

 「コロナ禍という厳しい世界情勢の中、文化も言葉も違う国で、彼がやってきた大変なことを伝えたい、彼の今を切り取るものを作りたいという一心でした。世界トップクラスのサッカークラブに身を置いていた日本人選手がもがいてきた姿を通じて、読んだ方が外の世界を見てみようと考えるきっかけにつながったり、社会活動や海外活動に出向いていく原動力になると良いなと思っています。」

 リバプールで紡いできた南野選手のストーリーが、読者の人生を変えるきっかけとなれば−−。神谷さんはそう願っている。