随分前から、完成を楽しみにしていた垂見さんの写真集。576ページもあるそれはずしりと重く、めくってもめくってもなかなかおしまいまで辿(たど)りつかない。ふと心が動き、手に持ったカメラでパッと撮ったような写真が、時系列順というわけでもなく大量に並ぶ。その一枚一枚に写っているのは多分、写真家が50年かけて築いた、沖縄との関係性。そこにはリラックスした人や土地の、日々の暮らしが写っていて、それがとにかく心地よい。その場にずうっといて、被写体と共に生きている人にしか見ることがゆるされない景色。笑顔も夕景も人の営みも、だからまっすぐ心に飛び込んでくる。沖縄に長く住む叔父から何度も聞かされた話を、反芻(はんすう)しているような錯覚に陥る。
この本をどう紹介しよう。あんまり難しく考えんなよ、と笑う垂見さんが頭に浮かぶ。言葉にすると大事なものを取りこぼしそうで怖い。垂見さんのあとがきを読んで、自分のその気持ちも腑(ふ)に落ちて、ちょっと泣けた。想像していたよりずっと、愛(いと)おしい本になりそうだ。=朝日新聞2023年5月6日掲載
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