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『電卓四兄弟―カシオ「創造」の60年』書評 世界に挑んだ「国産」の戦後史

評者: サンキュータツオ / 朝⽇新聞掲載:2017年05月21日
電卓四兄弟 カシオ「創造」の60年 著者:樫尾 幸雄 出版社:中央公論新社 ジャンル:経営・ビジネス

ISBN: 9784120049699
発売⽇: 2017/03/22
サイズ: 20cm/187p

電卓四兄弟―カシオ「創造」の60年 [著]樫尾幸雄 [聞き手]佐々木達也

 【読む前】 え、カシオって「樫尾」っていう人の名字だったの?! 樫尾さんって四兄弟だったの? そんな知識しかない私でも興味深く読めそうな、四男・樫尾幸雄さんのインタビューをまとめた本。
【概要】 戦争中に8畳一間に8人家族で暮らしていた樫尾家。旋盤工をやっていた長男の忠雄氏が戦後すぐの1946年、金属加工の「樫尾製作所」を設立。次男の俊雄氏は発明家。三男の和雄氏は行動力があり、営業担当。兄たちの姿から多くのことを吸収し、次男のアイデアを形にする技術者の幸雄氏。下請けの下請けからはじまった事業が、計算機の開発を手掛け、世界的な企業になるまでの話は、そのまま戦後の日本経済を象徴する。
【読みどころ】 本書を読めば電卓を語ることは以下のことを語るのと同義であるとわかる。ステンレスの利用でコストを下げられること。液晶の技術。工場を造るということ。販売網を確保するということ。方式を変える必要に対応するということ。半導体の歴史。時計で成功することと、携帯電話で失敗するということ。電子楽器ができるということ。役割分担と家族の絆、社員への感謝は大事だということ。ゴルフのしすぎはよくないということ。
 電卓の前身の「電気式計算機」は、戦後の経済成長を支える銀行や企業といった大きい組織で必要な「外国産」の「高価」なものだった。そこに町工場が「国産」でより「高性能」なもので戦いを挑む。そして次第に「個人」向けに市場を拡大していく。創意工夫、チームワークで競争力の高い商品を開発していく経緯の具体的かつ痺(しび)れるエピソードが淡々と語られる点が最高。
【効能】 「技術は生鮮食品のようなもの」という幸雄氏の持論は、放っておくとすぐに腐って使い物にならない、鮮度が大事という考え。これは技術だけに限った話ではない。生き方の指針として明日への活力としたい。「やる気」が出る一冊。
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 かしお・ゆきお 30年生まれ。カシオ特別顧問▽ささき・たつや 64年生まれ。読売新聞東京本社編集委員。