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「ニッポン戦後サブカルチャー史」書評 世の中の先端でざわめくリズム

評者: 細野晴臣 / 朝⽇新聞掲載:2017年07月02日
NHKニッポン戦後サブカルチャー史 深掘り進化論 著者:宮沢 章夫 出版社:NHK出版 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784140816868
発売⽇:
サイズ: 21cm/223p

NHK ニッポン戦後サブカルチャー史 深掘り進化論 [著]宮沢章夫ほか

 つい数十年前まで、日本では流行歌、欧米ではポピュラーと言われていた音楽があった。日本では後者は「大衆音楽」と訳されていた。今の「ポップス」はその名残だ。ところがそのポップスはもはや大衆音楽と質の違うものである。いつから音楽の大衆化に変化が起こったのだろう。
 かつてのポピュラー音楽でヒットするものは、似たようなアレンジを継承しつつも、どこかに新しい発想やリズムが仕掛けられていて、その発想が二番、三番煎じを生んで流行する、という繰り返しだった。俯瞰(ふかん)すればどれも似たようなアレンジやリズムが施されたものだが、そこには社会の多様性が反映され、活気のある「好奇心」が音楽を楽しいものにしていた。
 その主役がリズムの流行であった、ということが本書で語られている。20世紀を牽引(けんいん)してきた機関車のような力がリズムにはあったのだ。ラグタイム、スイング、ブギウギ、ルンバ、バイヨン、マンボ、チャチャチャ、ロック。だが、その先には目立ったリズムの流行は生まれていない。
 本書はサブカルチャーを扱っているが、今の文化にそういう括(くく)りをする活気があるかどうか疑わしい。ここで語られるサブカルは、かつて活気のあった世の中を一層賑(にぎ)やかにしてきたもの。歴史を振り返ればそれはサブではなく、動きの鈍い本流の先端でざわめく力だったという印象が強い。
 自分の体験と照らし合わせてみれば、確かに1950年代の日本に「マンボ」ブームがあった。それは次に押し寄せてくる大きな波、「ロカビリー」ブームの前夜であり、音楽を失っていた戦後の若者が動き始める前兆であった。巷(ちまた)には細くて短いマンボ・ズボンをはいた若者が増え、話題になったものだ。
 僕の本書への興味は、戦後のニューリズムを扱っている章にあった。著者の輪島裕介も言うように、語られることの少ない音楽史の重要事項なのである。
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 NHK・Eテレで2015年に放送された「ニッポン戦後サブカルチャー史2 DIG 深掘り進化論」を元に構成。