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「そろそろ、人工知能の真実を話そう」書評 AIは人間を凌駕するのか

評者: 佐倉統 / 朝⽇新聞掲載:2017年07月23日
そろそろ、人工知能の真実を話そう 著者:ジャン=ガブリエル・ガナシア 出版社:早川書房 ジャンル:コンピュータ・IT・情報科学

ISBN: 9784152096968
発売⽇: 2017/05/26
サイズ: 19cm/190p

そろそろ、人工知能の真実を話そう [著]ジャン=ガブリエル・ガナシア/人工知能の哲学―生命から紐解く知能の謎 [著]松田雄馬

 司会「みなさんこんにちは。今日の激論コーナーは、いま注目のAI、人工知能についてです」
 反対派「なんで今回は対談なんですか?」
 司会「最近、やわらかい形式の書評が流行なんですよ。〈山室恭子効果〉って言われています」
 反「あのですね、そういう、流行(はや)っているからやるというのが一番いけないんだよ。今のAIブームはその典型です。そんな態度でちゃんとした理解ができるはずないんだ(怒)」
 賛成派「ぼくは、その中から面白いものが出てくれば、流行でもいいと思いますけどね」
 反「いやいや、まずはこのガナシアさんの本を読んで頭を冷やしてください。AI現象が技術的な根拠のない軽薄なものであることが、丁寧に説明されています。AIがいずれ人間に取って代わるなんて言っている欧米の研究者もいますが、そういう考えはグノーシス主義という昔の宗教に似ているとも指摘されています。AI言説は科学ではなく、文化的産物なんです」
 賛「でも、ともあれ機械は進歩していきます。そう遠くない将来、AIが人間を超える思考力を持つ可能性は否定できない」
 反「その点については松田雄馬さんが、根本的かつ説得的な批判をしている。彼は、知能とは生命体が生存のために身体を通して環境と相互作用する能力だ、と考えています。つまり知能は身体と不可分なんですね。だから、ソフトウェアだけで知能を実現しようとしても、それはそもそもできないことなんです。AIは、囲碁とか将棋とか、ルールの決まっている世界の中でしか機能しない」
 賛「じゃあ、身体も人工的に作ればいい。ロボットですよ」
 反「いや、人間そっくりの身体を作っても、人間の知能と同じものができるだけです。仮に超人的に動ける人工身体ができて、そのロボットに知能を持たせたとしても、それは人間の知能とは似ても似つかないものになるはずです。人間を凌駕(りょうが)したことにはならないし、人間に取って代わる存在でもない」
 賛「しかし、AI研究のおもしろさのひとつは、純粋に計算だけで知能が実現できるところにあるんだと思います。人間の知能とは別の知能になったとしても、それは人間の限界を超えたと言えるのではないですか」
 反「自動車は人より速く走り、飛行機は空を飛ぶ。だからといって、それらが人間を『凌駕した』とか『取って代わった』とは誰も思わないでしょう。このように(以下略)」
 司会「えー、議論は噛(か)み合わないまま続いていますが、字数が尽きました。続きを知りたい方は、是非(ぜひ)この2冊をお読みください。ではまた来週!」
    ◇
 Jean−Gabriel Ganascia 55年生まれ。パリ第6大学情報学研究所教授(哲学)▽まつだ・ゆうま 82年生まれ。合同会社「アイキュベータ」代表社員。元NEC中央研究所員。