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中野翠「あのころ、早稲田で」書評 色あせない青春群像

評者: 市田隆 / 朝⽇新聞掲載:2017年05月28日
あのころ、早稲田で 著者:中野翠 出版社:文藝春秋 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784163906300
発売⽇: 2017/04/12
サイズ: 20cm/207p

あのころ、早稲田で [著]中野翠

 「あのころ」とは、学生運動真っ盛りの1960年代後半。早大生として過ごした日々を様々な友人の思い出とともにつづる。
 著者は、ユーモアあふれる筆致で世情をチクリと刺すコラムが得意だが、この回想録では動乱の時代に悩み戸惑う姿をさらけ出し、意外な一面を見せた。左翼学生の巣窟といわれた社会科学研究会に入ってマルクス、エンゲルスを学ぶものの、激化する大学闘争についていけない。それに後ろめたさを感じつつ「家庭生活の安楽さ(TVでお笑い番組を観(み)て嬉々(きき)としている私)も捨て切れなかった」と明かした。悩みながらも自分の生活感覚を大事にしたことがわかる。後に幅広いコラムを生み出す力を蓄えた時期かもしれない。
 60年代の映画や漫画に愛着を持ち、色あせない価値を伝える。早世した友人たちの追想では、多彩な魅力を持った青年群像を浮かび上がらせた。「私の中では生き続けている。あざやかに」の言葉がしみた。