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古処誠二「いくさの底」書評 なぜ殺されたのか、苦悩する良心

評者: 末國善己 / 朝⽇新聞掲載:2017年09月24日

いくさの底 [著]古処誠二

密室状態にある自衛隊基地の隊長室に盗聴器が仕掛けられるミステリー『UNKNOWN』でデビューした古処誠二だが、近年は戦闘シーンのない戦争小説で注目を集めている。太平洋戦争中のビルマを舞台にした著者の3年ぶりの新作は、ミステリーと戦争小説を見事に融合させている。
 先の大戦中のビルマといえば、日本軍の大失敗に終わったインパール作戦を思い浮かべやすい。だが著者は、ビルマの山岳地帯にある小村に警備駐屯する日本軍の動向という今までにない題材を、商社員ながら通訳担当の軍属になった依井の視点で描いているのだ。
 ビルマを戡定(かんてい)(平定)した日本だが、治安を乱す重慶軍に悩まされていた。閑職にあった賀川少尉は、急造された部隊を率いてヤムオイ村に向かう。少尉は7カ月前まで村にいて、村長を補佐する助役に清水次郎長一家から名を借りた渾名(あだな)を付けていた。しかも現地で実戦も経験したらしい。
 村に到着した夜、少尉が首を大きく切られて殺された。その死は村人に伏せられたが、2日後、村長が同じ手口で殺されてしまう。
 犯人は、日本兵か、村人か、それとも重慶軍か。外部との連絡が難しい閉鎖空間の村で、日本兵と村人が互いを疑うことで生まれる息苦しいまでのサスペンスは圧倒的である。さらに戦時下の、ビルマ奥地の小村でしか成立しないトリックを作っているので、意外な犯人にも、衝撃の動機にも驚かされるのではないか。
 そして謎が解かれるにつれ、目の前の勝ちにこだわり大局を見ず、現実より体面や建前を重視し、個人の良心を圧殺する日本軍の問題点も浮き彫りになってくる。これらの指摘は、現在の日本の組織が直面する課題とも無縁ではあるまい。
 インパール作戦は、日本型組織の欠点を論じる時によく使われる。本書もテーマは近いが、戦争を下からの目線でとらえており、苦悩する登場人物たちへの共感が大きいように思える。
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 こどころ・せいじ 70年生まれ。作家。航空自衛隊を経て00年メフィスト賞でデビュー。『敵影』『中尉』など。