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ECD「他人の始まり 因果の終わり」書評 家族を捨て「家族」取り戻す

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2017年11月19日
他人の始まり因果の終わり 著者:ECD 出版社:河出書房新社 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784309026077
発売⽇: 2017/09/12
サイズ: 20cm/198p

他人の始まり 因果の終わり [著]ECD

 作者はラッパー。書き下ろしは10年ぶり。「アル中」体験を題材にした前作同様、過酷な状況を他人事(ひとごと)のように突き放す。
 だが「なんとなくボンヤリと家族のありさまを書いてみよう」と書き始めたエッセイは、警察からの突然の電話で局面が切り替わる。実弟が腹を切って死んだという。なぜそんなことになったのか。
 弟は、心を病んで死んだ母が家にのこした作者の父と住んでいた。家族から離れた自分のせいなのか。それとも彼自身が抱えた個人の問題だったのか。家(因果)か、個(他人)か。いくら考えても答えは出ない。
 この問いは、作者自身ががん宣告を受け、手術で欠損した体を死の現実ごと受け入れることで、ある実感へと繋(つな)がっていく。家族といえども死までを共有することはできない。作者はようやく家族という「因果の終わり」を得たのだ。そして新たに「他人の始まり」からなる「家族」の縁を裏腹に取り戻す。