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仔鹿リナ「八百森のエリー」 青果仲卸の若者たち、愛情込め活写

八百森のエリー(1) [作]仔鹿リナ

 またひとつ、読み応えあるお仕事マンガが誕生した。舞台は栃木県下の青果市場。そこに本社を置く仲卸会社で働く若者たちの奮闘記だ。
 大学で農業を学んだエリーこと卯月瑛利(うづきえいり)と農家の息子で元ヤンの大虎倫珠(たいがのりたま)。タイプは違えど、ともに青果を愛する2人を中心に仲卸という仕事をみっちり描く。〈必要なモノを必要な数だけ必要な時間に揃(そろ)える〉仕事は一見地味。「中間業者ってこれからいらなくなるんじゃん?」「この業界って大丈夫なんですか?」というのりたまの疑問にうなずく人も多いだろう。
 しかし、その先入観はすぐに覆される。事故で疵物(きずもの)になったスナップエンドウをエリーの機転で見事さばき切る場面の小気味よさたるや! 単に商品を右から左に流しているわけではない仲卸の仕事内容と存在意義を一発で伝える作者の手際も鮮やかだ。
 それもそのはず、作者の夫は青果仲卸勤務で『うちのダンナは野菜バカ。』なる作品にもなっている。ネタは本場ものなのだ。ブラック企業的過酷さもありながら義理人情に厚い業界をリアルかつエキサイティングに、愛情を込めて活写。野菜も人も瑞々(みずみず)しく艶(つや)があり、読むだけで血液サラサラになりそうだ。=朝日新聞2018年2月18日掲載