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「仕掛人 藤枝梅安」 新生版、ドラマチックなコマ割り

仕掛人 藤枝梅安(1) [漫画]武村勇治 [原作]池波正太郎

 かつて何度も映像化され、さいとう・たかをがコミック化した池波正太郎の同名傑作の新生版だ。梅安(ばいあん)は品川台町に居を構える鍼(はり)の名医だが、それは表の顔で、金で殺しを請け負う仕掛人(しかけにん)でもある。
 商売道具の針を使い、業の深い相手を葬り去る梅安の手際は鮮やかで、凄(すご)みのある表情には濃い緊張が漲(みなぎ)っている。その一方で、ふと温かな笑顔を漏らすことがある。寡黙な梅安だが、ほんの少しの口角の上げ下げで感情が表現されており、緊張感を保ちながらも緩急のある演出に引き込まれる。ドラマチックなコマ割りやキレのあるアクションも新梅安の見どころだ。
 もちろん、原作ファンにはお馴染(なじ)みの食事シーンにもそそられる。例えば、鶏肉で出汁(だし)を引き、大根と油揚げでシンプルに仕立てた鍋。立ちのぼる湯気に、濁りのない旨(うま)みを想像して喉(のど)が鳴る。木桶(きおけ)に入れた湯豆腐や患者の手土産のハゼといった品には、失われつつある叡智(えいち)や人情が滲(にじ)む。そんな食事シーンを見ていると、裏稼業の人間でさえ、食べなくては生きていけないという人間という存在の滑稽なねじれが愛(いと)おしく思えてくる。新梅安も連載が進むにつれ、発酵にも似たその度合いが一層深まってゆくのだろう。=朝日新聞2017年11月5日掲載