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トクヴィル「アメリカのデモクラシー」 「平等」であることへの執着

大澤真幸が読む

 フランス革命が終結してから6年後に生まれた、フランスの名門貴族の息子アレクシ・ド・トクヴィルは、1831年に、アメリカで9カ月間の視察旅行を行った。このときの体験をもとに書いたのが『アメリカのデモクラシー』である。アメリカの政治家はしばしば、演説で本書の一節を引用する。
 26歳のトクヴィルは、アメリカ社会に衝撃を受けた。アメリカはデモクラシーの最も発達した国であり、デモクラシーこそ人類の共通の未来である以上、アメリカはフランスの未来である、と。日本人から見れば、革命によって絶対王制を倒し、人権宣言を発したフランスはデモクラシーの先輩だが、そのフランスに属する者が、アメリカに、自分たちとは異なる進歩的要素を見たところが興味深い。
 特にトクヴィルが強い印象をもったのは、平等であることへのアメリカ社会の強い執着だ。ここで言う「平等な社会」とは、無条件の不平等性がいかなる意味でも正当化されない社会という意味である。革命後も貴族制(アリストクラシー)の根を断ち切れないフランスとはまったく違っていた。
 あるいは、結社による社会活動が盛んなことにも、トクヴィルは驚嘆している。フランスでは、結社はたいてい特権集団であり、自由な職業活動の敵だった。ところが、アメリカでは、結社が自由を促進し、デモクラシーを補完している。
 宗教に対する感覚の違いにも注意が払われている。アメリカには、聖職者が公職に就くことを禁ずるなど厳格な政教分離の原則があるのに、政治の場に宗教的観念が浸透することをアメリカ人は少しも恐れていない。
 これらのトクヴィルの観察は、現在の観点から振り返っても実に的確だ。それだけになお、私たちは今日、より深い疑問の前に立たされる。たとえば、フランス人を賛嘆させたほど平等指向が強いアメリカに奴隷制や人種差別があったのはどうしてなのか。今日のアメリカに非常に大きな経済格差があるのはどうしてなのか。(社会学者)=朝日新聞2018年1月21日掲載