「どうしようもなく腐ってしまいそうな日も、明日の自分がまた新しい人生を始めてくれる」
益田ミリさんが、タイトル「今日の人生」に込めた思いだ。
幼い頃に作った切り絵をモチーフにした色鮮やかな表紙。めくると、優しいタッチのマンガや短文が書き付けてある。日々の暮らしの中で「くすり」と笑った出来事や、他人の言動で落ち込んだときの気持ち、小さな幸せをほっこり感じたこと。毎日がなんとなくつまらない時や、落ち込んだ心が立て直せない時に気持ちを切り替えるヒントが詰まっている。
「傷ついた時でも『私には私がいる』と思うと元気がでます。昨日の私、10年前の私、たくさんの私が今の私にはついているから、何とかなる、大丈夫だよと」
イラストレーターで、エッセーも幅広い世代に支持されている。執筆は夜中に。「ちょうどいい箱に自分の気持ちを流し込んで、蒸し上げる感覚」という。朝起き抜けにパジャマのまま読み返し、「ああ、気持ちを取りこぼさないで書けた、と思う時がうれしい」。
ウェブマガジン「みんなのミシマガジン」で連載中の作品を中心にまとめた。ピンク、水色など4色の紙を使い、初版では随所に、日々の食卓の写真が挟まる。予約販売分には直筆サインと、一筆添えた「今日の写真」をつけた。「レコードの初版限定みたいにしたくて。365部だったんです。なんか、人生って感じですよね」。さらに、セリフが空白のマンガも3作。それぞれの指定日に「ミシマガジン」で完成作が読める。最終回は今年10月。ささやかな喜びを作ってくれるチャーミングな仕掛けが満載だ。
作中で自身が特に気に入っているのは、映画のキャラクター・ベイマックスの大きな人形を街で見つけた日の話。ささくれていた心が、彼に触れたらほんの少し楽になった。「彼の心が優しいことを知っていたから。映画や音楽や小説を知ると、傷ついた時に支えとなって自分の気持ちをやりくりできる。この本も、そんな手すりのようなものになれたら、私も役に立てたかなと思う」 (真田香菜子)=朝日新聞2017年05月14日掲載
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