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声を奪われ、湧きだしてきた言葉 黒木渚さん「本性」 

 「あなた、一年後に死ぬわよ」。冒頭から、挑戦的なセリフに胸ぐらをつかまれる。「普通すぎてつまらない」と難癖をつけられ彼氏にフラれた女の子が、非凡を目指して奇行に走る短編「超不自然主義」だ。ほか2作を収めた『本性』は、初の単行本。シンガー・ソングライターで、アルバムの付録として発表した初めての小説『壁の鹿』(講談社文庫)も同時刊行し、この春、小説家として始動した。
 的確で思い切りのよい言葉選びと、「小説らしさ」にとらわれない自由な想像力が光る。日雇い労働者と風俗嬢のカップルのどん詰まりの日々を活写した「ぱんぱかぱーんとぴーひゃらら」。とりわけ才能を感じさせるのは、書き下ろしの「東京回遊」だ。主人公は女優の夢を諦め、地方での結婚生活に甘んじた美女。夫との関係に行き詰まり、家出をして上京した彼女は、乗り合わせたタクシーの運転手相手に身の上話を語りはじめる。見知らぬ者同士の交感を描いた佳話と思わせつつ、結末はいい意味で期待を裏切ってくる。
 宮崎県出身。校則の厳しい全寮制の中高一貫校で、「まともな娯楽は本だけ」の6年間を過ごした。村上春樹、吉本ばなな、江戸川乱歩、京極夏彦、江國香織……。図書館の蔵書を端から読んでいった。元々「インプットは文学だった」。
 大学時代にギターに出合い、バンドを結成、音楽活動をはじめた。音楽に出合ってからも文学への熱は冷めず、大学院に進んで英米文学を専攻。修士論文は米国のノーベル賞作家トニ・モリスンで書いた。今でも週に最低1回、本屋通いは欠かせない。
 昨年、声帯の筋がけいれんする病気にみまわれ、音楽活動を休止。声を取り戻すまでの時間を奇貨に、風俗街やパチンコ、日雇い労働者街を取材して回り、小説に落とし込んでいった。
 今年秋にはライブに復帰する。「音楽でも小説でも、根源に言いたいことや怒りがある。小説と音楽、両サイドにヘッドロックしてやっていきたい」(文/写真・板垣麻衣子)=朝日新聞2017年06月04日掲載