「どうしても、深く掘り下げられなかった」。20代の終わりから約10年、アルコール中毒だったこと。そして、いかにそこから抜け出したか。20年間書けなかったことを、ついに「告白」した。
元々酒はそんなに飲まなかったが、仕事が軌道にのり、時間もお金もできた頃には「朝からちびちび(ほんとは、たくさん)」飲むように。気付けば月に数度は「連続飲酒発作」を起こし、点滴を打っては飲む生活を繰り返した。擦り傷から大流血の事態までケガも絶えなかったが、「自分はアル中じゃない。原稿はちゃんと書けてる、なんて思ってた」。
体調を崩して飲まない日が続いた時、一睡もできずに幻聴や「ティッシュケースから、手がにょきっと」でる幻覚に襲われた。たまらず心療内科へ駆け込むと「アル中」との診断。それ以来「断酒中のアルコール依存者」という状態が20年続いている。
体験を本にしないかと編集者に持ちかけられたのは、10年前のこと。「当時の嫌な気分が張り付いて」筆がすすまなかった。そこで、語り下ろしの手法をとろうとしたが、話せるようになるまでにも2年かかった。「書けないけど話せた。ただ、記憶違いも多くて、裏を取ったら全然違っていたりして。自分の話なのに」。鋭い現代社会批評で知られるコラムニストも、自らの過去に切り込むには、迷いや葛藤は避けられなかった。
治療を始めた時、2人の子どもは保育園児だったが、家庭の話は少ない。本を読んだ妻からは「まるで別居して、あなたをひとりにしていたようだ」と言われた。「私生活や家族の話を避けた部分はあったかも」と振り返る。「でも、嫁さんが賢かった。ある編集者の助言に従って、やんわりほっておいてくれたから、やめられた。感謝している」
先日、息子の結婚式があった。断酒者には、冠婚葬祭をきっかけに再び飲んでしまう例も少なくないという。「結婚式なんかで、飲まずに挨拶(あいさつ)したりするのは異様に面倒なことですよね。でも大丈夫。飲みませんでしたから(笑)」
(文・写真 真田香菜子)=朝日新聞2018年3月25日掲載
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