戦争中、飛行機ごと敵艦に体当たりする特攻を9回命じられながら生還した人がいる。佐々木友次さん。その生涯を多くの人に知ってほしい、と本にした。2016年に92歳で亡くなる前、札幌市の病院に通って話を聞いた。
「穏やかな方で、声高になることなく淡々と語ってくれました」
佐々木さんは陸軍の第1回特攻隊員に選ばれるが、爆弾を敵艦に落として戻ってきた。すでに特攻は成功と発表され、新聞も報じていた。軍隊は生還を許さない。「何度だって行って、爆弾を命中させます」と言う佐々木さんに、「必ず死んでもらう」と繰り返し特攻が命じられる。しかし、すべて生還した。なぜそんなことができたのか。自分なら途中で諦め、敵艦に突っ込んでしまうだろう。
「寿命とも、ご先祖様のおかげとも語っていましたが、突き詰めていくと空を飛ぶことが大好き、その思いなんじゃないかと。生還すれば、また飛べるんですから」
佐々木さんは幼いころ、家の近くを飛ぶ飛行機を追いかけるのが好きだった。逓信省の養成所でパイロットになり、陸軍に配属された。時間があれば飛んだ。乗機は九九式双発軽爆撃機。もともと4人乗りであまり評判もよくなかったそうだが、佐々木さんは「鳥の羽みたいに自由に動く」と話した。「戦場に行くのが恐ろしいとかあまり思ったことない」とも。
編集者がつくった本の帯には「“いのち”を消費する日本型組織に立ち向かうには」とある。
「つい僕らは、うかうかしていると、日本型組織を維持するために、構成員の命を消費する傾向があるんです。でも、好きだということが、組織に抵抗できる、武器なんじゃないですかね」
佐々木さんについて、昨年8月、『青空に飛ぶ』という小説にもした。いじめに苦しむ中2の男子生徒が佐々木さんに出会う話だ。特攻には、日本的なもの、個人や組織や自由についての問題が凝縮しているような気がする。
「日本人であるとはどういうことかを考えるのは、たぶん僕のライフワークですね」
(文・星賀亨弘 写真・郭允)=朝日新聞2018年1月21日掲載
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