1980年夏にあった参院選の全国区で、約162万票を得て当選。人気の芸能人で、タレント議員と呼ばれた。1期6年務めた。それから31年。ずっと自分に投票してくれた人々のことが頭にあった。けれども、あまりに異質な経験、濃縮された時間だったから、それを文字にすることができないでいた。
「人生、総括の時期がきて、やっとその責任を果たせそうな気がしてきた」と本にある。「投票してくれた人たちへの報告という形なら、書けると思ったんです」と話す。
立候補した理由から始まって、当選後の議員活動、86年の参院選東京選挙区で落選するまでを詳細につづった。「勤勉で良心的な仕事」「国会には精勤」「市民運動と連携」「清廉潔白を徹底」したが、「政治的には毒にも薬にもならなかった」「今日に続く無残な政治路線を変える、なんの役にも立たなかった」「議員に向いていなかった」と振り返る。
それでも、国会議員をやってよかったと思っている。「個人と社会、個人と国との関係をすごく考えるようになりました」
この本を出した理由の一つは、現在の政治状況。「安倍政権になってから、むき出しになり、民間にも広がり出した国家主義、愛国主義」に危機感を持った。昔の市民運動仲間と交わす会話は「あのころは、まだましだったね」。「未来という大樹の、少しでもコヤシになるよう、過去を鋤(す)き直してみたいのです」と書いた。
自分を「人権思想の信徒」と言う。今もかかわっていて、大切にしているのは市民運動だ。住んでいる静岡県伊東市では「原子力いいんかい?@伊東」という名称で活動している。「市井人だから信じることを伸び伸びと主張したいし、個人を大切にしたい。それでも排斥されない世の中がいいと思っているのね」。表情はやさしく、口調はとてもやわらかい。
本の表紙には、80年参院選の選挙ポスターを使った。こうある。「きれいな未来を 子供たちに 手わたしたいから」
(文・西秀治 写真・飯塚悟)=朝日新聞2017年12月17日
編集部一押し!
- 売れてる本 岩尾俊兵「世界は経営でできている」 無限に創造できる人生の価値 稲泉連
-
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
-
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 黒木あるじさん「春のたましい」インタビュー 祀られなくなった神は“ぐれる”かもしれない 朝宮運河
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- インタビュー 「親ガチャの哲学」戸谷洋志さんインタビュー 生まれる環境は選べない。では、どう乗り越える? 篠原諄也
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社