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玄侑宗久さん、道尾秀介さん 異なる2作、不思議なつながり

げんゆう・そうきゅう 1956年福島県三春町生まれ。同町の福聚寺(ふくじゅうじ)住職。2001年「中陰の花」で芥川賞。『光の山』など。=北村玲奈撮影

 芥川賞作家の玄侑宗久さんと直木賞作家の道尾秀介さんが先月、東京・朝日新聞社読者ホールでトークイベントをした。玄侑さんの『竹林精舎』と、道尾さんの『風神の手』は、朝日新聞出版から同じ日に刊行された。この2冊、まったく異なる物語だが、意外なつながりがあって……。

人物設定・テーマ、めぐりめぐって共通点

 道尾さんが玄侑さんの熱心なファンだったことから二人は知り合い、作品を読み合うように。玄侑さんは、道尾さんの『ソロモンの犬』(文春文庫)にほれこみ、「登場人物のその後を書きたい」と直談判。道尾さんは快諾した。東日本大震災の3日前だった。
 対談では当時を振り返り、「僕の小説の続編を玄侑さんが書くなんて。うれしい以外にない」と道尾さん。玄侑さんは「実はその頃すでに30枚ほど書いてしまってたんです。道尾さんの作った登場人物4人をとても気に入って」と明かした。
 『ソロモンの犬』は、大学生の男女4人をめぐる青春ミステリー。大学生だった主人公は、玄侑さんの『竹林精舎』では出家している。福島の寺に入る彼は、ネットで「放射能」と検索し、その情報の多さや真偽に戸惑う。
 「平飼いの養鶏に挑む青年を書こうと取材していたが、震災が起きて、しばらく書けなくなった。だんだん彼らに震災後の福島へ来てほしいという思いが出てきて、はじめから書き直しました」と玄侑さん。「放射能のやっかいなところはそのあいまいさです。同じ線量でも怖がって避難する人もいれば、住み続ける人もいる。ひとりの心の中でも怖いと思うときと大丈夫だと思うときと両方がある。そういう不安を描こうと思った」と続けた。

みちお・しゅうすけ 1975年生まれ。2004年『背の眼(め)』でデビュー。10年『光媒の花』で山本周五郎賞。11年『月と蟹(かに)』で直木賞。=北村玲奈撮影
みちお・しゅうすけ 1975年生まれ。2004年『背の眼(め)』でデビュー。10年『光媒の花』で山本周五郎賞。11年『月と蟹(かに)』で直木賞。=北村玲奈撮影

 道尾さんの『風神の手』は、遺影専門の写真館がある小さな町が舞台だ。いくつかのうそやはかりごとが、人々の運命を変えてゆく。「三つの中編が一つの大きな物語を作る。第2章は朝日新聞の連載。同じくらいの長さの物語でそれをはさみこんで、中編集にも長編小説にもできないことをしようと思った」と道尾さん。
 「風が吹けばおけ屋がもうかる、ですね。語り手が3代にわたって、めぐりめぐってつながってゆく」と作品の魅力を語る玄侑さんに、道尾さんは「一陣の風がいろんな物語を生む。あのシーンやセリフが別の部分とつながって、というのは書いていて一番楽しい。主人公の目線で書いているので、彼と同じように、そうだったんだ、とぞくぞくします。伏線は、書いた時点ではまだ伏線じゃないので」。
 作風の異なる2作だが、意外な共通点が見つかった。『ソロモンの犬』で重要な役割を果たす動物生態学者の間宮先生。独身の設定だったが、玄侑さんの作品でも、道尾さんの『風神の手』でも結婚している。ところがその妻を、玄侑さんは大学を出たばかり、道尾さんはずっと年上として描いた。「二人とも年が離れた人と結婚したと書いているのが不思議でおもしろい。パラレルワールドのように、どちらも間宮先生なんだと思う」と道尾さん。
 もう一つの共通点は風だ。「どちらも偶然、最後は風の話になる。竹林の中にはいつもなんとなく風が吹いている。最後に残ったキーワードが風でした」と玄侑さん。道尾さんは「玄侑さんのあとがきに、風に吹かれて、とあってびっくりしました。互いにまだ読んでいなかったのに、同じテーマになったのが不思議です」と話した。(中村真理子)=朝日新聞2018年2月25日掲載