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「八咫烏シリーズ」はある予感から 阿部智里さん「弥栄の烏」

 最年少の20歳で松本清張賞を受け、作家デビューした。人から鳥の姿に変身できる「八咫烏(やたがらす)」が治める異世界を描く「八咫烏シリーズ」を書き続け、6巻の『弥栄(いやさか)の烏(からす)』で第一部が完結した。累計85万部に達する大ヒットになった。5年前の自分から見て、今の自分は——。「想像していた通りです」ときっぱり。
 高校2年、後の5巻『玉依姫(たまよりひめ)』の原型となる小説を書いていたときのこと。八咫烏が生きる世界を表す「山内(やまうち)」という言葉が浮かんだ。その瞬間、「これは大きなシリーズになる」という予感を得た。これが原点だ。
 1巻は4人の姫が后(きさき)の座を奪いあう王朝ファンタジー。2巻は若宮を中心に朝廷の権謀術数を描く。3巻では大猿が暴れ回って八咫烏を襲い、4巻は少年らが武官養成学校で腕を磨き合う青春物語。「和風ファンタジー」としかいいようがないほど巻が進むごとに世界は深く広く鮮やかになる。
 「山内」という世界には、年表や地図はもちろん、位階制度に朝廷の役職、古くから伝わる歴史書もある。これらの設定は5年前にほぼできていた。10冊以上のアイデアノートやパソコンのなかに、まだ書かれていない設定が山のようにあるそうだ。「歴史がすでにある。どこを切り取って、どう面白く見せるか」。誰の視点からでも書ける。「1作目は賞を取るため、読者を刺し殺すような、ふいをつくものにしました。2作目以降は読者を楽しませるように。プロになって意識は微妙に変わったかもしれません」。憧れるのはトールキン『指輪物語』だ。「あの歴史の作り方を目指したい」
 早稲田大学大学院で東洋史を学ぶ。出版社に泊まり込み、執筆は集中型。年に1冊のペースで刊行してきた。他社からの依頼はあるが「雑な仕事はしたくない」とこのシリーズにすべてを注ぐ。
 プロの小説家になろうと思ったのは小学2年の時。それより前から物語は書いていた。「私は自分を生まれながらの作家だと思っています。やるべきことをやるだけ。死ぬまで書くでしょう」
 (文・中村真理子 写真・工藤隆太郎)=朝日新聞2017年7月30日掲載