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「アンダーアース・アンダーウォーター」 絵本で広がる地球への好奇心

アンダーアース・アンダーウォーター 地中・水中図絵 [作・絵]アレクサンドラ・ミジェリンスカ&ダニエル・ミジェリンスキ

 子どもの頃、原っぱにある大きな石を見つけてはひっくり返していた。その湿った土を少し掘ると、見たことのない世界が広がっていた。ダンゴムシやミミズだけではなく、名も知らぬ生き物が蠢(うごめ)いていた。掘ると何かいる、との確信があったのだ。
 世界42カ国を精緻(せいち)なイラストで紹介した『マップス 新・世界図絵』が全世界で300万部を超えるヒットを記録した、ポーランドの絵本作家夫妻による新刊は、地面の下を掘った世界と、水の中へ潜った世界の広がりを描いた大型絵本だ。本の表と裏の双方から読み進めることができ、赤い表紙からは地中の世界、青い表紙からは水中の世界が連なる。それらがぶつかる真ん中のページには「地球の中心」の図解。見事な設計だ。
 「地中」からめくってみる。世界一深いところまでのびた木の根は、カラハリ砂漠で井戸を掘っているときに見つかった68メートル。ウクライナ・キエフの人たちは地下鉄に乗るために建物38階分以上の深さまでエスカレーターで下りる。確認されているなかで最も深いクルーベラ洞窟では、深さ2キロ近くでトビムシの一種を発見、暗闇の中で生きているために目がなく、菌類等を食べていたという。
 「水中」をめくる。1715年、英国人のジョン・レスブリッジは樽(たる)の形をした潜水服で難破船から貴重品を引き上げ、財を築いた。海の上に立つ巨大なプラットホームはどのように固定されているのか。60メートルにもなる海底の煙突(チムニー)に集まってくる生き物とは……。
 著者の2人は何も知らない状態から一つ一つ調べ上げ、3年かけてこの本を完成させた。2人は「ぼくたちの仕事は、子どもたちの好奇心を刺激すること」と語る。検索すればひとまず答えが出る現在だが、その答えの近くで起きていることを教えてはくれない。当然のことだが、モグラの穴と水道管は同じ地中にある。大きな石の裏から海底まで、呼吸する地球への好奇心を豊かに広げてくれる。(武田砂鉄=ライター)
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 徳間書店・3456円=2刷5万部
16年12月刊行。重さ1・5キロで渋い色使い。「『マップス』の読者に加え、理系の内容にひかれる人も新たな読み手になっている」と担当編集者。=朝日新聞2017年4月2日掲載