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「SLEEP―最高の脳と身体をつくる睡眠の技術」 様々な論文もとに実用的提案

SLEEP―最高の脳と身体をつくる睡眠の技術 [著]ショーン・スティーブンソン

 売れる実用書の条件は何か。
 一つはその本の扱う問題が普遍的に関心が高く方法が容易なことだ。ダイエットや部屋片付けは骨董(こっとう)鑑定より売れる。手を回すだけで痩せる、ともかく行動しろ、何回も単純作業を繰り返せという本は実際売れるが、千日間荒行をしろという本は誰も買わない。
 あとは、提案内容に説得力がある、共感を呼ぶという要素である。よくあるパターンは、どん底まで落ちた著者が人生を逆転させたという感動的なストーリーを軸にする。ビリから名門大学に合格とか、失職したシングルマザーや学校からドロップアウトした人が高収入にといった物語。実は極めて個人的な事情による成功も多く、試験に次々合格したのは良いがその後のキャリアが混迷など、没落ケースもあり説得力を失う。
 そこで次に出てきたのが、スター教授を著者にするものだ。いわゆる「〇〇大学式」、これなら理論的背景、再現性もある。しかし、スター教授は少なく、本を沢山出してもくれない。そこで、実用書のサードウェイブとして、一人の教授の主張ではなく、様々な学術論文をライターらがまとめるタイプの実用書が次の流れとして出てくる。これなら学術的な背景による再現性、説得力があり、本も作りやすい。
 そして、こうした売れる条件をすべて満たした本が、『SLEEP』である。この本は、眠りというすべての人間の基本欲求をテーマにしており、「眠る」という誰でもしていることに関連する実行しやすいことをすると人生のあらゆることが改善されるということを、様々な学術論文(怪しいのもあるが)を引用しながら展開している本である。どうだろうか、見事に売れる実用書の条件を満たしている。しかもダイエットから電子機器の使い方、サプリメント、マインドフルネスまで最近の実用書テーマのてんこ盛りである。なんとしても売りたい著者の熱意が暑苦しいくらいだが、その努力は報われそうだ。
 瀧本哲史(京都大学客員准教授)
    ◇
 花塚恵訳、ダイヤモンド社・1620円=9刷3万5千部 17年2月刊行。著者は米国の健康部門のポッドキャスト「The Model Health Show」のクリエーター。=朝日新聞2017年9月24日掲載