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藤崎彩織「ふたご」書評 成長体験を共にしたふたり

ふたご [著]藤崎彩織

 ボーカルFukaseの少年性、ポップな旋律、社会批判的な歌詞で人気を博すSEKAI NO OWARI(以下「セカオワ」)。その紅一点のピアノ奏者Saoriこと藤崎彩織がバンド継続の苦難物語を書きおろした。ヒロイン夏子の恋人役で、同じ中学の一年上級、素晴らしい歌声の月島が、高校中退、米国留学にも挫折する経緯が最初描かれる。これはセカオワファンに知られるFukaseの実人生だ。「事実」が書かれているのか。読者は緊張感に包まれる。
 だがそんな詮索(せんさく)の外で、本作は少女小説として至純だ。鋭敏で病的な月島に翻弄(ほんろう)されつつも夏子の端正で地味なたたずまいが光る。後半、彼女を入れ月島のバンド活動が描かれ出すと(その多くがセカオワの伝記と符合する)、クラシックピアノを学んだだけで創作動機のない彼女が追いこまれ、演奏力も批判される。試練個々がえぐられるほど痛いが、夏子の自己省察の豊かさで救われる。文章も素直。とりわけ段落間に漂う空気が柔らかくて良い。
 嫉妬を描く小説でいえばプルースト『囚(とら)われの女』に匹敵する繊細さ。タイトル「ふたご」は成長体験を共にした夏子が月島に願う精神共同体の様相だが、それにより、嫉妬が通常性から外れるのが新しい。月島と付き合いだす不思議なバンド応援団「すみれ」から、夏子は自然にディープキスをされる。このとき嫉妬が幻惑的な入れ子状態となる。「すみれちゃんの向こうに、私は月島を見ていた。彼女の唇の柔らかさを感じながら、私は彼女に触れた時の月島の気分を想像していた」。ここが唯一の性描写だった。
 ふたごという縛りで生じた不可能性から脱出する夏子の成長に打たれる。「後書き」で藤崎は吐露する。何とFukaseこそが本作完成を励ましたのだと。読了後、ついに実現されたSaori作詞作曲の「PLAY」を聴き直し、作中の夏子同様、眼(め)が潤んでいった。
 阿部嘉昭(評論家・北海道大学准教授)
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 文芸春秋・1566円=2刷10万部 17年10月刊行。著者は86年生まれ。初の小説。担当編集者によると「“セカオワ”のファンにとどまらず、文芸書として広く読まれています」。=朝日新聞2017年12月3日掲載