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辻山良雄が薦める文庫この新刊!

  1. 『須賀敦子の旅路 ミラノ・ヴェネツィア・ローマ、そして東京』 大竹昭子著 文春文庫 1188円
  2. 『死を悼む動物たち』 バーバラ・J・キング著 秋山勝訳 草思社文庫 1058円
  3. 『辞書から消えたことわざ』 時田昌瑞著 角川ソフィア文庫 950円

 (1)没後二十年、今年は須賀敦子に関する本の出版が相次いでいる。生前親交のあった著者が須賀の足跡を辿(たど)り、その作品と人生を考えた本書には、遺(のこ)されたエッセイの静謐(せいひつ)さからは想像出来ない、創作者としての厳しい顔も垣間見える。在りし日の会話やインタビューも収録された、新たな〈読み〉を誘う一冊。
 (2)親しいものの「死」への悲しみは、人間だけに起こる感情なのだろうか。動物にも家族や仲間の死を前に、引きこもるもの、死骸をいつまでも見つめるもの、後を追い自殺するものまで、それぞれの死を悼む行動が見られる。動物の内的世界に対して、どのようにアプローチをするのか、その過程がスリリング。
 (3)辞書に加わる新たな言葉がある一方で、「人参(にんじん)が人を殺す」「這(は)っても黒豆」など、いつの間にか消えていった言葉もある。意味は分からずとも、そこにはその言葉を生きた、庶民の集合知が現れている。「こんな人、今でもいるな」と思うところに、新たなことわざが生まれる兆しがある。=朝日新聞2018年03月25日掲載