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「お金2.0 新しい経済のルールと生き方」 社会の変化、巨視的に見通す

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 [著]佐藤航陽

 書名やビットコインと書かれた帯文から、「仮想通貨を煽(あお)る本なのか」といぶかしむ読者もいるかもしれない。しかし本書はそうではなく、これからの社会がどう変わるかを、貨幣を軸にして巨視的に見通した内容である。
 ネット企業によって膨大なデータが集められ、人工知能(AI)が分析してあらゆるものが自動化されていこうとしている。一方でシェア経済やブロックチェーンなど中央集権的ではない分散の仕組みが登場している。この二つの流れが合流すると「自律的だが分散している」という新しい形が生まれ、従来のように中央集権的ではない、分散してそれぞれが自律的に動くシステムの可能性を生み出す。
 中世まで知識は写本に書かれて修道院に保管され、ラテン語を読み書きする知識人だけの空間に閉ざされていた。しかし印刷の発明によって知識はオープンなものになり、近代化の原動力のひとつとなった。
 著者はこれと同じことが、貨幣の世界でも起きると説く。現代は実体経済の上に載る金融経済が過剰に膨れ上がり、複雑な売買が行われ、普通の人の届かないところに経済は行ってしまっている。しかしそれがゆえに金は余り、資金調達も容易になって、結果としてお金の価値そのものが下がるという逆説的な現象を生んでいる。そこでは信頼や時間、個性などお金で買えないものの価値が相対的に浮上しており、これらの価値を媒介する新しい経済の可能性が出てきている。これと自律分散が融合すれば、新しい社会システムの基盤となるのではないかというのが本書の中心的な論だ。
 まだ実現していない話であり、ある種の理想論でもある。しかし政治や社会の未来を考えていくときに、本書の世界観や知識は議論の前提条件となっていくべきだろう。文章は平易で、難しい言葉は使われていない。しかしこの世界観を直感的に理解できるかどうかは重要な試金石になるように思う。
 佐々木俊尚(ジャーナリスト)
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 幻冬舎・1620円=10刷20万部。17年11月刊行。高校生から30代会社員が中心読者層。「バイブル的に読まれている」と編集者。=朝日新聞2018年04月14日掲載