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辻山良雄が薦める文庫この新刊!

  1. 『アンネの童話』 アンネ・フランク著 中川李枝子訳 酒井駒子絵 文春文庫 767円
  2. 『歴史の話 日本史を問いなおす』 網野善彦、鶴見俊輔著 朝日文庫 670円
  3. 『増補 書店不屈宣言』 田口久美子著 ちくま文庫 842円

 (1)その時の世界が閉じたものであったとしても、言葉はそれを超えることが出来る。アンネ・フランクは隠れ家生活のなかで、日記以外にも、童話やエッセイを書き記していた。残された言葉は、少女の持っていた意志の強さと、子どもらしい純真さが混じり合い、いま読んでも、小さな光を放っている。
 (2)既成概念を疑い、違う角度からものを眺めてみるだけで、単一の視点からは生まれない豊穣(ほうじょう)な世界が広がる。歴史家と哲学者が生涯にわたり示したのは、その見かたではなかったか。「日本人」「国家」とは何かという、硬直しがちな問題に対し、柔らかな姿勢をもって考える。その対話の言葉は、自分の人生から出た骨太なものだった。
 (3)著者は四十年以上、本が売れていく〈現場〉にいる。書店の仕事は、一見地味なことの繰り返しだが、細かな工夫が今でも現場を支える。ネット書店の出現により変わった出版の現状に関し、具体性を持ちながら踏み込んで書かれた、現在進行形の本。=朝日新聞2018年01月14日掲載