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福永信が薦める文庫この新刊!

  1. 『ワッハ ワッハハイのぼうけん 谷川俊太郎童話集』 谷川俊太郎著 和田誠絵 小学館文庫 961円
  2. 『五つの証言』 トーマス・マン、渡辺一夫著 中公文庫 864円
  3. 『文芸的な、余りに文芸的な/饒舌録ほか 芥川vs.谷崎論争』 千葉俊二編 講談社文芸文庫 1728円

 (1)谷川さんは長年詩をくすぐってきた。読者をその都度「子供」に戻し、豊かな詩の世界を垣間見せてきた。その彼が「物語」をくすぐった。それがこの本。人間の感情なんて言葉の組み立て次第。コロコロ変わる。そこに文学の可能性がある。約半世紀をかけた3冊がまとめて読める小さな豪華本。巻頭作大傑作。
 (2)至極真剣。世界を憂える著者達(たち)の気持ちがペンのみ持つ非力な自身へ乱反射し、苛立(いらだ)ちが充満。そこに読者をくすぐる何かが生まれる。自信を喪失しているからこそ宿る力がある。文学のフシギなところ。海外側からはジードの序文を、日本側の著者と中野重治との往復書簡等も収録。読み応えばっちり。
 (3)あの「論争」の一部始終を時間軸に沿って収録。単独の原稿を読むのとは異なる印象。二人の協働と言える。が、予期せぬ終わりを迎える。ほんとに「筋」がなかったわけだ。巻末の解説では論争のその後を追う。以上、文庫だけのオリジナル編集3冊。昔の原稿を新刊として出せるのが文庫の強み、編集の腕の見せ所。=朝日新聞2017年10月08日掲載