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「N女の研究」書評 新しい働き方を創造する人たち

評者: 星野智幸 / 朝⽇新聞掲載:2017年01月29日
N女の研究 著者:中村 安希 出版社:フィルムアート社 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784845916153
発売⽇: 2016/11/01
サイズ: 20cm/295p

N女の研究 [著]中村安希

 20代半ばで私が会社を辞める決断をしたとき、モデルケースとなったのは女性の友人や先輩だった。限界を感じるとステータスのある仕事でもあっさり辞め、外聞にこだわらずにより自分に合った仕事へと移っていくのに対し、男の友人たちは独身でも生活を理由に我慢し続ける。私は、自分に投資するためにはリスクをとれる女性たちの自由な姿勢に、未来を感じた。
 現在30代を中心とする次世代の女性たちは、さらにその自由さを標準として、生きる場を作ろうとしている。学歴も実務能力も備えた女性たちが、報酬も地位も高い仕事を捨てて、NPOに転職する例が増えているという。そんな「N女」たちを取材したのが本書だ。
 著者の中村さんは、女性の働きづらさ生きづらさを自身の問題として、N女たちに深く共鳴しながら、女性の働く場のあり方を考える。この切実さが深く心に響く。将来に希望を持てない世代として常に貧困の足音を耳にし、一方ではいまだに旧態依然とした男性社会の圧迫を受け続けている。居場所が消されていくという不安を、N女たちは、だからこそ自分たちの実感に合った働き方の場を作るチャンスなのだと捉え返して、したたかに静かに格闘する。
 彼女たちはボランティアをしたいのではなく、あくまでも自分を偽らずに能力を発揮できる仕事場としてNPOを選んでいる。職場に合わせて強引に自分を作り変えることをやめ、自分を見失わずにすむ仕事場を創造する。結婚や出産など、人生のステージごとの選択に従って働き方を変えられる職場は、女性のみならず誰もが無理なく働ける。
 給与の低さなど、深刻な課題は山積みだが、それでも地道な変化のほうへと動いていくN女の姿は、あらゆる人にとって将来の働き方のモデルケースとなるだろう。結論部にある、N女から著者が見出(みいだ)した四つの知恵は、希望に満ちて深い感銘を与えてくれる。
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 なかむら・あき 79年生まれ。ノンフィクション作家。『インパラの朝』で開高健ノンフィクション賞。