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チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ「アメリカーナ」書評 移住が身近な時代の差別と日常

評者: 円城塔 / 朝⽇新聞掲載:2017年01月08日
アメリカーナ 著者:チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ 出版社:河出書房新社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784309207186
発売⽇: 2016/10/27
サイズ: 20cm/538p

アメリカーナ [著]チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

 主人公のイフェメルはナイジェリア生まれ。西アフリカに位置するナイジェリアは、経済的な破綻(はたん)で話題に上がることが多いが、高校時代を、まずまず平和に暮らすことができた。
 イギリス連邦に属するナイジェリアの公用語である英語を話し、民族固有の言葉は、意識して覚えなければ身につかない。
 大学はほぼ機能を喪失しており、高等教育のためには海外にでる必要がある。運良く就学ヴィザをとることはできても、就労ヴィザをとることは難しい。送金が期待できなければ不法就労ということになる。
 ごくふつうの若者がアメリカへ渡って直面するのは、英語の訛(なま)りや人種、出身国による有形無形の色分けである。
 意識的な差別には持ち前の理性で対処することができたとしても、無意識的な差別に対しては、相手の思慮の足りなさや、教育程度の低さを指摘することになるから難しい。
 自分を支援してくれる人が常に理性的であるかどうかはわからないし、理性的な理由で支援してくれているのかどうかも不明だ。
 イフェメルは日常的に遭遇する人種問題についてのブログで有名となる。学術的な業績や、やっとみつけた仕事を認められてのことではなくて。
 政治的に正しいとされる発言を一方的に押しつけてくる小説かと警戒したくなるかもしれないが、高校生活からアメリカ時代を経て、ナイジェリアへの帰国と続くお話は、そう単純には進まない。単純に語ることができるような差別なら、とっくに解決していておかしくないのだ。
 全編に緊張感をみなぎらせる物語はしかし、ただ現代の青春小説でもあって、地理的な距離が解消された世界における日常的なドラマでもある。
 その気になればアメリカやヨーロッパへ移住するという手があるとぼんやり考えているような人はぜひ一読を。
    ◇
 Chimamanda Ngozi Adichie 77年ナイジェリア生まれ。19歳で渡米。本作で全米批評家協会賞を受賞。