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「未来政府」「経済学者 日本の最貧困地域に挑む」書評 情報で社会が変わる二つの事例

評者: 円城塔 / 朝⽇新聞掲載:2016年11月27日
未来政府 プラットフォーム民主主義 著者:ギャビン・ニューサム 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784492212288
発売⽇: 2016/09/30
サイズ: 20cm/368p

未来政府―プラットフォーム民主主義 [著]ギャビン・ニューサム、リサ・ディッキー/経済学者 日本の最貧困地域に挑む―あいりん改革 3年8カ月の全記録 [著]鈴木亘

 情報技術の発達により、日常的に政治の話が目に入るようになってきた。失策が話題となって、多くの人の怒りをかきたてたかと思うと、すぐに別の話題があとへと続く。
 ここに素朴な疑問があって、手軽に情報を発信できるようになったのに、政治があまりよくなっていないように見えるのはどうしてなのか。
 どうも、床屋政談のボリュームをあげるだけでは足りないということらしい。
 ギャビン・ニューサムは前サンフランシスコ市長。情報技術を取り入れ、市政の効率化を図った。
 経済学者の鈴木亘は、橋下徹大阪市長時代、特別顧問として西成特区構想のリーダー役を担った。
 情報技術の最先端をゆく街と、大阪市の貧困地域に重なるところは少なそうに思えたとしても、両市がとった、ホームレス支援や貧困対策の手法には多くの共通点がみつかる。
 ひとつには、人情に頼るのではなく、経済的な原理を利用すること。
 ひとつには、議論の経緯や土台となる情報はネットなども利用して、できる限り公開すること。
 ひとつには、統計だけではなくて、当事者たちの話をじかにきいて歩くこと。同時に当事者たち同士に話し合ってもらうこと。
 人の気持ちはむろん大切だが、多くの意見があるときに議論の決め手とはなりにくい。感情的な反応をよびがちで、なかなか結論にたどりつかない。
 情報の公開は不正防止以外の利点もあって、そのコミュニティに本当に興味を持つ人をひきよせるきっかけとなる。
 意見交換できない相手を人間は信用できない。
 つい忘れられがちだが、自分たちの暮らす場所をよくするためには、自分たちで動いていくしかないのである。他の誰かが勝手に動いてくれる理由がない。
 ではどうやって、という問いに、この二冊の本は実例を示してくれている。
    ◇
 Gavin Newsom カリフォルニア州副知事/Lisa Dickey ライター▽すずき・わたる 学習院大学教授。