「オはオオタカのオ」書評 命と死に対する、じつに深い洞察
評者: 蜂飼耳
/ 朝⽇新聞掲載:2016年11月27日
オはオオタカのオ
著者:ヘレン・マクドナルド
出版社:白水社
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784560095096
発売⽇: 2016/09/28
サイズ: 20cm/370p
オはオオタカのオ [著]ヘレン・マクドナルド
すばらしいノンフィクション作品だ。著者のヘレン・マクドナルドはケンブリッジ大学で科学史・科学哲学を学んだ女性。父の死によって精神的な危機に直面し、ある日思い立ってオオタカを飼う。少しずつ慣れていくオオタカと著者の距離感。古くからの伝統を持つ鷹(たか)狩りに挑む日々。
イギリスの作家T・H・ホワイトの『オオタカ』の記述が随所に織り込まれ、本書に奥行きを与えている。著者はそれを批評的に読む。ホワイトの人生に困難と孤独をもたらした子供時代の虐待、サディスティックな性質や同性愛。著者は『オオタカ』を読み直しつつ、鷹狩りの経験を重ねながら、自分自身が変わっていくことを感じる。
「たとえ想像のなかであれ、人間でないとはどういうことかをひとたび知ることができれば、そのことによって、人はより人間らしくなれるのだということを学んだ」。自然の摂理や命と死に対する、じつに深い洞察に満ちた書だ。