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「食べることの哲学」 考察のフルコース

檜垣立哉さん 53歳 大阪大大学院教授

 フランス現代思想や日本哲学の研究者が、食をめぐるエッセー「食べることの哲学」(世界思想社)を出版した。「食べることは、文化・社会としての人間と、動物・身体・生命としての人間の両側面が矛盾し、ぶつかり合う局面。極めて興味深い哲学的問題です」
 人間は食べなければ死ぬ。生きるために、「我々は何かを殺して食べる。その後ろ暗さに目を向けなければ、人間の生も現代文明も理解できないのでは」  本書では、洋の東西の調理法からカニバリズム(共食い)、食べることを前提に豚を飼育した「いのちの授業」、食物連鎖を扱った宮沢賢治の「よだかの星」などの小説。果ては断食や拒食症といった「食べないことの哲学」までもが幅広く論じられ、さながら食の考察のフルコースを味わう気分だ。
 近年、生命工学など科学技術の進展で食をめぐる状況も変化しつつある。「細胞培養によって生物を殺すことなく、人造肉が作れるとか。またサプリメントだけで生きられるようになるかも。後ろ暗さがなくなり、人間の本性も変わっていくかもしれない」(池田洋一郎)