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アレクサンダー・マクラウド「煉瓦を運ぶ」書評 凝視の力に貫かれた短編集

評者: 大竹昭子 / 朝⽇新聞掲載:2016年08月21日
煉瓦を運ぶ (CREST BOOKS) 著者:アレクサンダー・マクラウド 出版社:新潮社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784105901271
発売⽇: 2016/05/31
サイズ: 20cm/281p

煉瓦を運ぶ [著]アレクサンダー・マクラウド

 カナダ出身のアリステア・マクラウドは優れた短編作家だが、同じく作家の息子が父と同レベルという保証はない、とやや斜に構えて本書を開いたが、二、三編読んで姿勢を正した。父に引けを取らない濃密で確かな文章を書く人である。
 真っ暗なトンネルのなかで列車と競走をする、両腕に煉瓦(れんが)を抱えて走って運ぶ、ホテルの屋上から眼下の川にダイブする、凍った雪道を自転車で配達するなど、極度の集中を要する常軌を逸した行為が想像のつかない展開をする。基底にあるのは、人間は「自分にはどうしてもできないことによって作られている」という洞察である。
 父がケープ・ブレトン島を舞台にしたのに対し、アレクサンダーが目をむけるのは、斜陽化するカナダの工業地帯と、そこに暮らす都市生活者。モチーフは異なるが、人間の持つ正否を超えた原始の力に畏怖(いふ)を見いだす筆致が共通している。意識したものから目をそらさない凝視の力に貫かれた短編集。