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旅するように巡るフランス絵画 「プーシキン美術館展」

クロード・モネ《草上の昼食》1866年 © The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
  1. 風景画 自然との対話と共感 (ART GALLERYテーマで見る世界の名画 3) [著]山梨俊夫
  2. 八十日間世界一周 [著]ジュール・ヴェルヌ
  3. グランドツアー 18世紀イタリアへの旅 [著]岡田温司
  4. ノア ノア  [著]ポール・ゴーギャン

(1)「風景画 自然との対話と共感」は、図版を多用した画集に近い書籍で、古代から現代までの風景画を3章で紹介する入門書。著者は本展の次の巡回先となる国立国際美術館(大阪)の山梨俊夫館長です。

 「宗教画や歴史画といった様々な絵画ジャンルがあるなかで、風景画の歴史は浅く、17世紀のオランダで誕生したと言われています。中産階級の市民が力を持ち、宗教や歴史画よりも、もっと身近な自然の風景が好まれるようになりました。19世紀は『風景画の世紀』と言われるほど、風景画が豊かに花開いていきますが、そういった歴史や潮流をコンパクトにまとめた、おすすめの1冊です」

クロード・ロラン《エウロペの掠奪》1655年 © The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
クロード・ロラン《エウロペの掠奪》1655年 © The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.

(2)パリで第1回印象派展が開催される前年の1873年に出版された「八十日間世界一周」。イギリスの資産家が財産を賭け金にして、鉄道や蒸気船を乗り継ぎ、80日間での世界一周に挑む冒険物語です。

 「19世紀に風景画が発展した理由のひとつに、交通網の発達があります。気軽にパリを離れて、郊外の風景が描けるようになりました。セザンヌも、パリと故郷の南仏を生涯で20回以上も行き来します。パリで最新の美術の動向や過去の巨匠たちの作品を学びつつ、故郷に帰って画風を成熟させていったんです。ゴーギャンも蒸気船でタヒチに。この時代に世界が急速に狭くなっていった状況を分かりやすく伝えるには、この本がぴったりだと思います」

 本展では、モネがまだ26歳の時に描いた「草上の昼食」が初来日。印象派の画家になる前の過渡期に手掛けたこの作品も、交通の発達に大きな影響を受けている。

 「この絵のように、着飾ったパリジャンやパリジェンヌたちが気軽に郊外の森に行き、画家たちも訪れてそれを描く。森が画家たちのパラソルだらけだという風刺画が描かれるくらい、こぞって押し寄せる現象が起きたそうです」

(3)18世紀ごろ、特にイギリスの貴族の子どもたちが、教育の仕上げのためにイタリアまで旅する「グランドツアー」という慣習があった。「グランドツアー 18世紀イタリアへの旅」は、彼らを魅了した自然、遺跡、芸術などを、イタリア側の視点から書いた本です。

 「こんなに大陸内を動けるんだ、アルプスも越えるんだという当時の旅の様子が、素直に実感できます。展示作品にもイタリアの風景が描かれたものがありますが、このグランドツアーの影響が大きいんです。やはりイタリアには簡単に行けないので、お土産に風景画を買って持ち帰ったり、帰国後にイタリアらしい風景を描かせたりしたんです」

 時代は折しもポンペイ遺跡発見のころ。本書では遺跡ブームにも触れている。同じ18世紀に描かれたユベール・ロベール「水に囲まれた神殿」には、海面上に立つ廃虚となった神殿が描かれるが、史実では水に囲まれてはおらず、建物がこれほど崩れてもいない。

 「遺跡ブームで人々が訪れるようになり、いかにもイタリアの廃虚というような景色が好まれたので、恐らく想像も加えて描かれたのだと。この絵だけを見るとき、一連の背景を知ると、より深く鑑賞できると思います」

(4)「ノア ノア」はゴーギャンが自身のタヒチ滞在をつづった紀行文。パリへと戻ってタヒチを描いた作品を展示する際に、ゴーギャンが自分の絵をより理解してもらうための文章を書き、死後に編集・出版されました。

 「ゴーギャンは文明の影響から解放された原始的な世界を夢見てタヒチに行くわけですが、実際はフランスの植民地となっていて、もはやそこまで素朴な生活ではなかった。絵にも、憧れのタヒチの姿を加えていますが、この本も完全なノンフィクションではないようです。それでも、ゴーギャンが憧れていたタヒチでの生活が生き生きと伝わってくる本です」

ポール・ゴーガン《マタモエ、孔雀のいる風景》1892 年 © The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
ポール・ゴーガン《マタモエ、孔雀のいる風景》1892 年 © The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.

 出展されている「マタモエ、孔雀(くじゃく)のいる風景」には、半裸でおのを振るう男性や、熱帯に高く伸びるココナツの木など、異国のモチーフが描かれている。

 「マタモエという言葉ですが、ゴーギャンがよくタイトルに使ったタヒチ語かもしれません。フランスに帰った時に『死』という単語を付して展示しているので、恐らく死を意味するんでしょう」

 「ノア ノア」の中にも、自身が密林で木を切る場面が登場する。文明人としての自分が死に、この島の原始人としての自分が生まれ変わったということが書かれる。
 「作品を解釈する上でのヒントが拾えるのも、この本の面白いところだと思います」

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アンリ・ルソー 楽園の謎 [著]岡谷公二

 ルソーの生涯を追った評伝。著者が実際にゆかりの地を訪れた感想を交え、エッセー風に書く。美術教育を受けなかったルソーに対する当時の批評や、同時代の画家との交流などを紹介し、その頃の空気を伝える。熱帯のジャングルを繰り返し描いた画家だが、実はフランスから出たことがなく、訪れていたのはパリの植物園。今展で展示されている「馬を襲うジャガー」に、画家の豊かな想像力をみる。

アンリ・ルソー《馬を襲うジャガー》1910年 © The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
アンリ・ルソー《馬を襲うジャガー》1910年 © The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.