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絶対王者は今も「青春の握り拳」 小橋建太さん「がんと生きる」

 プロレス界で「絶対王者」と呼ばれていた男が、腎臓がんの宣告を受けたのは2006年。39歳だった。「死んでしまうのか」と心が闇に包まれた。
 摘出手術後、衰えていく体。「生きよう」という意志と、リング復帰という夢が日々を支えた。「師匠のジャイアント馬場さんが、プロレスラーは怪物であれと言っていた。怪物なら復帰できる、復帰するのがプロレスラーと信じていた」。07年に復活。「コバシコール」に日本武道館が揺れた。
 13年に引退後、講演会で闘病体験を話し続けている。強調するのが、早期発見の大切さと前を向く心。「がんは誰もがかかるかもしれない病気。そうなったときに、僕の言葉がどこかに残っていてくれたら」。ゆっくりで丁寧な語り口。これも馬場さんに言われた「リングを下りたら紳士たれ」の実践か。
 現役時代、反撃に移るときは拳を握りしめて「行くぞー」と絶叫した。ファンの心をわしづかみにした「青春の握り拳」。講演会の最後もこれで締める。全員が立ち上がり「オー!」と拳を突き上げる。「生涯プロレスラー」を実感する瞬間だ。
 「第2の青春」の目標は、自分のスポーツジムを開き、高齢者の健康維持を手助けすること。実現に向けて動き出している。
 この本で、がんの宣告を受けた日に交際していた7歳年下の女性から「私と結婚してください」と言われたことを明かした。自身も結婚を考えていたが、幸せにできるとは思えなかった。「それはできない」と答えた。だが、手術前も手術後も献身的に支え続けてくれる姿に「きちんとした形にしよう」と決意。4年後に結婚した。その妻・真由子さんに、本の中で初めてプロポーズした。「一緒にいてくれてありがとう。これからも一緒に歩んでいこう」
 3年前に娘が生まれた。未來(みらい)ちゃん。「未は僕と同じ未年(ひつじどし)だから。來は自分という木をしっかりと立てて、人とのつながりを大切にしてほしいから」
 医師から、あなたが罹患(りかん)したがんは手術から10年以上たっても再発した例があると言われている。「家族と共に、がんとの時間無制限一本勝負に勝つ」
 (文・西秀治 写真・飯塚悟)=朝日新聞2018年5月26日掲載